ALVAS JOURNAL

選択の科学(シーナ・アイエンガー (著), 櫻井 祐子 (翻訳)著 2010年 文藝春秋)~自由とは限らない「選択」の真実~

こんにちは。荻原です。

「選択する」という行為について、皆さんはどのように考えていますか?

多くの方にとって、選択肢が豊富にあることは魅力的に映るかもしれません。特に現代社会では「選択の自由」という考え方が広く浸透しています。そのため、自身で選択できることがより高い満足度を生むことにつながると言われています。

本日は、コロンビア大学教授シーナ・アイエンガーの著書『選択の科学』をご紹介します。実は原題は「The Art of Choosing(選択という芸術)」という、日本語タイトルとは異なるニュアンスを持つタイトルです。

著者のアイエンガー教授は、3歳の時に眼の疾患と診断され、高校生で全盲になった過去があります。両親はインドのデリーからの移民でシーク教徒であり、家庭では着るものから結婚相手まですべて慣習で決められていました。

そんな彼女がアメリカの公立学校で、「選択」がアメリカの力であると教わり、後に「選択」を研究テーマとして社会心理学の博士号を取得しました。

本書では「選択」という行為に潜む様々な真実が明らかにされており、単なる「自由」以上の複雑さを持つことが示されています。今回は、私が特に重要だと感じた3つのポイントについてご紹介します。

 

目次

    1. 選択はあなただけのものではない

    「選択」と聞くと「自由」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

    昼食にハンバーガーを選んでもいいし、ラーメンを選んでもいいというのは、まさに自由そのものです。

    しかし、「選択」できることが、必ずしも「自由」を意味する訳ではありません。

    なぜなら、選択肢のバックグラウンドが選択を制限したり、特定の選択に誘導したりするためです。自分で選択したと思うものでも、親、兄弟、学校、会社、国や民族など、人間は常に環境から影響を受けて選択しています。

    その一例として有名なのが「吊り橋効果」です。

    吊り橋のように恐怖を感じるような場所で他者とコミュニケーションを取ると、その相手に対して好意的な感情を抱きやすくなるというものです。恐怖や不安を覚える環境では心拍数が上がりますが、この反応が感情の解釈に影響を与えるためと考えられています。

    つまり、相手に対する「好意を持つかどうか」という評価の選択も、本人の意識とは無関係な環境要因によって大きく左右されてしまうのです。これは、選択が自由意志だけで完結しているわけではないことを示す、象徴的な例と言えるでしょう。

    ただし、自由意志による選択でないから無意味だと考えるのは間違いでもあると著者は述べています。

    重要なのは自分の選択が周りから影響を受けていると自覚すること。良い影響があれば悪い影響もあるということです。

    例えば、尊敬する先輩が実践している日報の書き方を真似するのは、自分の成長に良い影響を与えてくれるでしょう。一方で、周囲の人に合わせて自分に合わない働き方を無理に取り入れてしまうと、かえってストレスが増えることもあります。

    このように自分の選択が何から影響を受けたのかを自覚できれば、悪い影響から距離を置くことができるようになるのです。

    2. 選択肢は多い方が良いは間違い


    ジャムの試食販売の実験があります。

    1回目は試食用に24種類のジャムを用意し、2回目は6種類のみにしました。

    実験の結果、実験では、24種類のジャムを用意したときは来店客の約60%が試食に立ち寄りました。一方で、6種類しか置かなかったときは約40%にとどまりました。一見すると、選択肢が多い方が有利そうですね。

    ところが24種類の場合、試食した顧客が実際にジャムを購入した割合はわずか3%、一方6種類の場合は試食した顧客の30%が購入に至りました。

    つまり、24種類の時は顧客全体の1.8%、6種類の時は12%がジャムを購入したことになります。

    この実験から分かるのは、選択肢の多さは人を喜ばせるものの、実際の選択からは遠ざけているということです。人間は選択肢が多すぎると、本当に望ましい選択をするのが難しくなる生き物なのです。

    理由は、何かを選択するということはそれ以外の選択肢を捨てることだからです。選択肢が多いということは、一つを選んだ際に失われる数も多くなることを意味します。

    選択肢が多くなることで見落とされがちな、最も大きなデメリットは「増えた選択肢を精査するためのコストが膨らむ」ことです。そして、多くの人はこのコストを軽視してしまいがちです。

    たとえば、就職活動中のAさんが、本命の1社に応募しようとします。ところが、「落ちたらどうしよう」と不安になり、念のため2社を追加したとします。さらに「全部ダメだったら」と考えて関連企業も加えることで、いつの間にか選択肢が増えすぎてしまいました。

    当然、その分の企業研究やエントリー準備にかかる労力も増え、限られた時間と集中力が分散してしまいます。結果として、本命企業に注ぐべき力が薄れてしまうリスクがあるのです。

    営業マネージャーが新しいCRMツールを選ぶ場合も同じです。選択肢が多すぎると、比較検討に時間がかり、本当に必要な機能や社内の使いやすさといった本質を見失ってしまいがちです。その結果、「なんとなく有名だから」「機能が多いから」といった理由で選んだツールが、実際にはチームに合わず、定着しないというケースも少なくありません。

    もちろん、「だから選択肢を増やしてはいけない」と極論を言うつもりはありません。使えるリソースには限りがあるため、選択肢が増えることによるコストと、選択肢が増えることで得られるメリットを比較することが大事だということです。

    選択肢を増やしすぎれば重要な選択肢に使えるリソースが削られて、失敗してしまうリスクも高まると頭に入れておくと良いのかもしれません。

    3. 選択を検証する

    人は周りからの影響で、望ましくない選択をしてしまうことがあります。
    しかし、人は誰にも影響されず完全に自由な選択をすることはできません。ただ、なるべく影響を小さくすることはできます。

    そのために必要なのが、「自分の選択を検証すること」です。

    ある選択をした際、その選択が何から影響を受けたのか、その結果はどのようなものだったのか、きちんと振り返ることで評価ができるようになります。このように自分なりに受けた影響を検証できれば、より良い選択のために必要なものが見えてきます。

    これには特別な知識や技術は必要なく、単純に習慣の問題です。自分の選択について記録をつけたり、日記を書いたりすることで、後から自分の選択を見つめ直す機会を作ることができます。

    さらに、営業日報や1on1の対話を活用して「なぜその提案を選んだのか」「なぜその順序にしたのか」を言語化することも有効です。
    こうした振り返りを仕組みにできれば、選択の質は着実に向上します。

    4. おわりに

    人生には数え切れないほど多くの選択が待ち受けています。

    その一つずつにおける負担(コスト)はそれほど大きなものではないかもしれませんが、それが何千・何万と積み重なることで、与える影響は決して無視できるものではありません。

    だからこそ、自分の選択の方法について真剣に考えることは、幸せな人生を送れるかどうかを分けるほど重要と言えます。

    「良い選択をすることは大切だが、行った選択をよいものにしていくことはもっと大切だ」と言われることがあります。

    私たちにできることは、現実をまずそのまま受け入れること(例えば「他人にどう見られたいか」と同じくらい「どう見られているか」を正しく知るようにすること)、

    そしてどんな現実においても「選択できる」という意志を失わないこと、そして選択を重ねながら自分を磨いていくことではないでしょうか。

    本書には、今回ご説明した内容以外にも「選択」が人に与える影響について詳しく論じられており、いかにして選択という行為と向き合うべきかを考えるきっかけを与えてくれる1冊です。

    この記事を読んで少しでも興味を持って頂けた方がいれば、実際に読んで人生のレベルアップに活かしてみてはいかがでしょうか。

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    荻原エデル

    社内では、デザイン関係や営業支援をメインで担当しています!最近は動画編集も始めました。
    趣味は筋トレ、空手、映画鑑賞、読書。インドア人間です。

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