ALVAS JOURNAL

【前編】インサイトセールス入門編:顧客の“二個上の目的”を捉える新しい営業の形

こんにちは、荻原です。

今回から2回にわたり、営業手法を根本から変える「インサイトセールス」についてお届けします。
インタビューのお相手は、アルヴァスデザイン代表取締役CVOの高橋さん。

単なる課題解決ではなく、顧客と“二個上の目的”を共有し、新たな価値を創造する営業手法を、豊富な実例と共に語っていただきました。
この【前編】では、その考え方の核心と、すぐに試せる「目的を深掘りする質問」
についてご紹介します。

続く【後編】では、インサイトセールスの営業現場での実践と応用、そして組織展開のリアルに迫ります。

 

目次

    1. インサイトセールスを一言で表すと?


    荻原:本日はよろしくお願いします。まず、高橋さんがお考えになる「インサイトセールス」を一言で表すと何になりますでしょうか?

    高橋:そうですね。お客様とより高次元の目的を共有した上で、その実現に資する提案をする営業スタイル、といったところでしょうか。

    従来は「お客様の理念やビジョンの実現のための提案を提供する」と表現していたのですが、これですと担当者ベースでの営業はインサイトセールスではないのか、という話になってしまいます。しかし、そんなことはありません。実際には、会社のビジョンに限定せずに、より高い目的・高次元の目的を共有することが重要です。

    荻原:高次元の目的というのは、具体的にはどのようなことでしょうか?

    高橋:スポーツに例えるなら、

    • ヒットが打てるように頑張る
    • 試合に勝てるように頑張る
    • 優勝できるように頑張る
    • 地域のお客様に一番愛されるチームになるために頑張る

    といった具合に、目的には段階があります。

    多くの人が共感できるような大きな目的をお客様と一緒に設定して、そこに向けての提案を共有・提供していく。それがインサイトセールスの本質だと考えています。

    2. 従来営業では届かない「顧客の深層ニーズ」を捉える視点転換

    荻原:従来の営業では届かなかった顧客の深層ニーズを捉えるためには、どのような視点の切り替えが必要でしょうか?

    高橋:「二個上の目的を捉えに行く」ということが非常に大事ですね。
    例えば、お客様から「求人広告を出したいので提案してください」と言われたとします。従来なら「わかりました、見積もりを作ります」となるところですが、そこで一歩踏み込んで「求人広告を出す目的は何ですか?」と聞く。

    「新しい事業を立ち上げるために営業担当者が欲しい」という答えが返ってきたら、さらに「新しい事業を立ち上げる狙いは何ですか?」と問いかける。そこで例えば「これまで培ってきたITやAIの技術をより多くの消費者層にデバイスとともに提供したい」といったような、二個上の目的が見えてくるのです。

    荻原:そうした視点の切り替えは経験が必要なのでしょうか?

    高橋:熟達度は経験とともに上がりますが、経験が必須というわけではありません。むしろ、まずは「上の目的を捉えに行くためのセリフが言えるかどうか」という前段階が重要なのです。

    「今回一番実現したいことは何ですか?」というセリフは典型例ですね。このセリフを商談の中で一回は言いましょう、というお題を与えられたら、だいたいの人はできるはずです。そんなちょっとした心がけ次第で、スタートラインに立てると思います。

    3. インサイトセールスが本領を発揮した印象的な場面

    荻原:インサイトセールスが本領を発揮した印象的な場面を、ストーリー形式で教えていただけますか?

    高橋:二年前から始まったお客さまとの取り組みが印象的でした。
    営業企画部長さん(現在は役員)の直轄で、部長職のマネジメント教育を別の人財開発ベンダーに依頼していたのです。内容はマネージャーとしての数字の捉え方、案件管理、メンバーに数字意識を持たせる方法など、プロジェクト形式の研修でした。

    同じ土俵で勝負しても、今までやってこられた延長上の方が熟達度は上がるだろうと考え、違う提案をさせていただきました。

    「数字管理は大事ですが、その先にあるのは、お客様に対してもっと新しい価値を届けることや、『考えて行動する』といった文化を築くことではないでしょうか。そのための手段は、必ずしも数字管理だけではないような気がしています。数字管理以外のマネジメントを一緒に学ぶ機会を作りませんか?」

    そう提案することで、数字管理が一つの手段に位置づけられ、一個上・二個上の目的を握ることができました。結果として、今では弊社のマネジメント教育のプログラムでそのお客様に貢献することができています。

    荻原:まさに高橋さんがよくおっしゃる「HowではなくWhy」の実践ですね。

    高橋:そうですね。ただ、「Why」は日本語に直すと「なぜ?」になってしまうのが落とし穴です。「なぜ?」と問われた時、半分ぐらいの方が目的ではなく経緯を答えます。「こういうことがあって、こういう課題があったのでやっているのです」といった具合に…。

    「Why」の中には経緯と目的の両方が存在するわけですが、目的の方を問う必要がありますね。

    4. 新規商談前の「洞察発見」プロセス

    荻原:新規商談前に顧客の深層ニーズを理解するために、「情報収集→仮説作り→ヒアリング」というプロセスがあると思いますが、どの段階が最も重要でしょうか?

    高橋:顧客の真のニーズを理解する場面は、実は一連のプロセス全体が大事です。野球で例えるなら、大きな球を打つために何が大事かと問われても、事前のピッチャーについての情報収集、どういう球が来るかという読み、力強いスイング、全部が大事なわけです。一個だけ挙げてくださいと言われても、上げられないと思いますね。

    情報収集、仮説立て、実際のヒアリング、すべてが連携して初めて顧客の本質的な課題が見えてきます。

    5. 「まだ言語化されていない課題」を見抜く質問術

    荻原: 商談中に顧客のまだ言語化されていない課題を見抜くコツや、よく実践されている質問例を教えてください。

    高橋:あの手この手で目的を聞き出すということですね。星の数ほど言葉を並び立てて、目的を聞き出し、共感し、また聞き出し、共感しという繰り返しです。

    具体的には、まず「実現したいことは何ですか?」という質問、そして「他に何か実現したいことはありますか?」と続けます。いくつか出てきたら「優先順位はありますか?」と深掘りしていく。

    ある程度やることが決まっている場合は、「すごくいい取り組みですね。ちなみにこれ、実際にやるときにいろんな方に案内を出されると思いますが、その時の目的ってどんな風に表現して書かれますか?」といった質問も有効です。

    荻原:お客様の反応を見ながら進めることも重要なのでしょうか?

    高橋:まさにそこが重要です。質問した直後の表情が大事だと思います。考えて答えが出てくる方と出てこない方がいて、出てこない方の中には「恥をかかされた」と感じる方もいらっしゃいます。

    そういう時は、仮説をぶつけることが大切です。例えば「目的としてよく伺うのが、なんでも言い合える組織風土にしたいとか、一人ひとりのメンバーが創意工夫してお客様に喜んでもらえる会社にしていきたい、といった目的なのかなと思ったのですが、実際のところどうでしょうか?」といった具合です。事前準備で仮説を用意しておくことが重要ですね。

    荻原:なるほど、問いかけた時の相手の表情や反応まで意識して仮説をぶつける——まさに“目の前の会話を深く観察する力”が問われるのですね。
    事前準備と、場の空気を読む力。その両輪が大切だと改めて感じました。

    高橋さん、本日は前編としてお話を伺いましたが、インサイトセールスの「本質」に少しずつ近づけた気がします。
    次回は、さらに実践的な質問テクニックや、組織で広げていくためのコツについても伺っていきたいと思います。ありがとうございました!

    荻原エデル

    社内では、デザイン関係や営業支援をメインで担当しています!最近は動画編集も始めました。
    趣味は筋トレ、空手、映画鑑賞、読書。インドア人間です。

    高橋 研

    代表取締役 CVO
    早稲田大学大学院理工学研究科終了後、株式会社ファンケルに入社。
    その後、30歳を節目に営業の世界に飛び込み、多くの会社の教育支援に携わる。
    2013年株式会社アルヴァスデザイン設立。2018年「実践!インサイトセールス(プレジデント社)」出版。

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