ALVAS JOURNAL

【後編】インサイトセールス実践編:質問力・AI活用・信頼構築から、組織展開まで

こんにちは、荻原です。
こちらは、前回に引き続きお届けする「インサイトセールス」特集の【後編】です。

前編では、顧客の“二個上の目的”を捉えるという視点や、インサイトセールスの基本的な考え方、商談での問いかけの工夫についてお伝えしました。

前編はこちらから

今回の【後編】では、より実践的な観点からインサイトセールスを深掘りしていきます。
「すべての顧客にインサイトセールスが刺さるとは限らない」——
そんな前提のもと、見極め方と柔軟な対応力についても、高橋さんに実体験を交えて語って頂きました。
営業現場はもちろん、チームづくりや人材育成に携わる方にとっても、ヒントが詰まった内容となっています。

目次

    1. インサイトが外れた時のリカバリー方法


    荻原:前編では、相手の深層ニーズに近づくための問いや姿勢について学びましたが、実際には、インサイトがうまく響かないケースもありますよね。
    そういった時の対応や見極め方について、今回はぜひ伺いたいと思います。

    インサイトが外れてしまった場合、どのようにリカバリーされているのでしょうか?

    高橋:失敗パターンは大きく三つに集約されると思います。

    一つ目は「ビジョンがないケース」。
    言われたからやっています、という状況ですね。これは基本的にリカバリーしません。撤退です。ただし、相手の姿勢によっては「一緒により格好良い、ウキウキする目的を作りましょう」という働きかけはします。それでも「いいからとにかくやってよ」となったら、やめますね。

    二つ目は「予算的な制約」です。
    大きな目的を共有すると提案内容も大きくなってしまいますが、その時は「とりあえずスモールステップで始めましょう」と言って、最小限で滑り出せるような提案を用意しておきます。

    牛肉食べたいと言われて牛一頭連れてこられたらびっくりしちゃいますよね。「とりあえずこのくらいのやつを調理して出せるようにしておきます」という感じです。

    三つ目は、新たな観点の提供が必ずしもお客様が欲しがるものとは限らないケースです。
    お客様が「ください」と言ったものもちゃんと用意しておく。中華料理を食べたいという奥さんを喜ばせたいお客様に、「奥さんを喜ばせるならフレンチでしょう」と言い切るのではなく、中華の選択肢も用意した上でフレンチも提案すると印象が違いますよね。

    2. 生成AI時代のインサイトセールス活用法


    荻原:生成AIをインサイトセールスの実施においてどのように活用されていますか?

    高橋: お客様の課題についての仮説を立てる部分では、実はあまり使っていないです。それよりも「問いかけのツール」として活用しています。

    具体的には「このお客様が実現したいと考えていることを引き出すための問いって何ですか?」といった感じで、お客様情報を入力した上で問いの一覧を作成してもらいます。全部持っていくわけにはいかないので、フィットしそうなものをいくつか選んで商談に臨むという使い方ですね。

    何を伝えるかよりも、何を問うかのためのツールとして活用しています。

    荻原:生成AIが発達する中で、人が担うべき役割はどこに残ると思いますか?

    高橋:意思決定の部分ですね。意思決定の選択肢はAIが提供してくれると思いますが、意思決定するのは人間です。

    意思決定するために考える必要があるのですが、AIが全部考えてくれるので、どんどん考えなくなってきています。だからこそ、AIを用いてより深く相手と洞察していくような、考えるためのコミュニケーションがすごく大事になってきます。

    考えるためには問いが大事なので、問い立てをどうするかが第一歩として重要ですね。普段考えないような問いが出てくると、人間って立ち止まります。そういう瞬間を作ることが、今後ますます重要になってくると思います。

    3. オンライン商談で信頼を築く「戦略的アイスブレイク」

    荻原:オンライン商談で会わずに信頼を築くために心がけているコミュニケーション習慣はありますか?

    高橋:「戦略的アイスブレイク」を意識しています。
    電話やオンラインといった機械を通したコミュニケーションでは、深く相手を理解するよりも、効率的にコミュニケーションを済ませようという心理が働いてしまいがちです。

    でも、そんな中で価値のあるアイスブレイクは天気の話でも昨日の夜何を食べたかのお話でもないのです。

    相手を理解するためのアイスブレイクが重要です。例えば、Zoomの背景にこだわっているお客様がいらっしゃる場合、背景に新しい記号や情報が含まれていることがあります。それらは相手に伝えたいから入れているはずですよね。

    「この後ろの背景で、このマークは何ですか?お取り組みの記号ですか?」といった質問をすると、絶対に話したがります。話したいからそこに入れているわけですから。

    また、「今日はどちらでお仕事されているのですか?」と場所を聞くのも効果的です。場所によって出せる情報が変わってきますし、コミュニケーションのやり方も変わってきます。カフェと言われたら、見積もりを画面に出すのも一回断りを入れてからにするなど、配慮ができるようになります。

    4. 社内でインサイトセールスを広げる文化づくり


    荻原:研修などを実施して社内でインサイトセールスを広げる際、どんな文化や仕組みが効果的でしたか?

    高橋:上位職者に共感してもらうのが一番早いですね。担当者よりも上位職者に働きかけて共感してもらった方が広がり方は早いです。

    もう一つ重要なのは「強制しない」ことです。こういうものを広げていく時に、「みんなこれ義務です」という雰囲気になりがちですが、それが強く伝わりすぎると、やらされ感でやる人が一定割合発生します。それは文化形成の妨げになってしまいます。

    「新しい取り組みを進めていきますが、日常業務がお忙しいと思いますので、もし日常業務を優先させたいというご意向があれば、今回見送っていただいても構いません。どうするかは上司と相談した上で決定してください」と伝えると、意思決定権が本人に移ります。

    自分で意思決定したものは、やり切る習性がありますので、結果として文化形成には効果的になります。参加しないという選択肢を与えることが重要ですね。

    5. これから始める人への実践的アドバイス


    荻原:これからインサイトセールスを始めようと思っている方へ、明日から試せる一歩と3年後に差がつく学び方をアドバイスしてください。

    高橋:お客様から何か提案を求められたり、リクエストされたりした時に、反応的に答えないということですね。

    「こういったことできる?」「こういうサービスある?」と言われた時に、反応的に「あります」「できます」って返答していないでしょうか?その時に一回立ち止まって、「しっかりと価値提供するために、一つ回答の前にお伺いしたいのですが、今回このリクエストをいただいた背景にあるものや、実現したいことなど、その辺を伺ってもいいですか?」という一言が言えるかどうかです。

    立ち止まって実現したいことを一回聞く、目的を聞くということですね。これだけで3年後には大きな差がつくと思います。

    荻原:最後に、営業という職種について一言お願いします。

    高橋:いろいろと申し上げましたが、とはいえ営業なので、失敗する確率の方が高いと思います。様々な職種の中で、営業は数少ない失敗が許される職種だと思います。

    野球のバッターと似ていて、大谷翔平さんだって10回バッターボックスに立って7回失敗しているわけです。だからこそ、やっぱり場数が大事だと思います。

    一回バッターボックスに立って打てなくて「これ、やり方が全然話にならない」とはならないわけじゃないですか。ちゃんと場数をこなすことがすごく大事だと思いますね。

    荻原:高橋さん、後編でもさまざまな実践的なお話をありがとうございました。
    「インサイトセールスは誰にでも刺さるわけではない」という前提のもと、
    相手の反応を見極め、柔軟にアプローチを切り替えていくこと。
    そして、組織に浸透させていくためには、“共感”と“選択肢”を尊重する姿勢が欠かせないというお話がとても印象的でした。
    前編・後編を通じて、インサイトセールスは技術だけでなく「姿勢」そのものなのだと感じています。
    この姿勢を持って日々の営業やマネジメントに臨むことで、対話の質そのものが変わってくるのではないでしょうか。

    読者の皆さんも、まずは「二個上の目的を捉える問い」を一つ持って、
    ぜひ明日の商談や1on1で実践してみてください。

    高橋さん、本当にありがとうございました!

    荻原エデル

    社内では、デザイン関係や営業支援をメインで担当しています!最近は動画編集も始めました。
    趣味は筋トレ、空手、映画鑑賞、読書。インドア人間です。

    高橋 研

    代表取締役 CVO
    早稲田大学大学院理工学研究科終了後、株式会社ファンケルに入社。
    その後、30歳を節目に営業の世界に飛び込み、多くの会社の教育支援に携わる。
    2013年株式会社アルヴァスデザイン設立。2018年「実践!インサイトセールス(プレジデント社)」出版。

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