ALVAS JOURNAL

買わない理由を潰しても、お客様は増えない

こんにちは。高橋です。

今日は、ある小さな違和感から始まった気づきをお話しします。

「いい店だったよ」

誰かに聞かれたら、きっとそう答えたと思います。料理は美味しい。価格も妥当。接客も丁寧。悪いところは一つもない。それなのに、店を出たあと、心のどこかでこう感じていました。

「また来るかと言われたら……たぶん来ないな」
この不思議な感覚が、後に私の法人営業の姿勢を大きく変えることになりました。

目次

1. 「悪いところがない」だけでは選ばれない


なぜ、あの店にはもう一度行きたいと思えなかったのか。

嫌だったわけではありません。不満があったわけでもありません。むしろ、ちゃんとしている店でした。それなのに、心が動いていない。
この感覚は説明しづらいものでしたが、後になって私は、法人営業の現場で何度も思い出すことになります。

法人営業では、こんな商談があります。
価格、機能、リスク、導入条件。考えうる懸念を一つずつ丁寧に潰し、質問にもすべて答えた。論理的には、説明に穴はない。

それでも最後に返ってくる言葉は、「分かりました。社内で検討します。」

決して否定されているわけではありません。むしろ、理解はされている。それなのに、前に進まない。
以前の私は、こう考えていました。

「まだどこかに、買わない理由が残っているはずだ」と。

だから、さらに資料を足し、説明を重ねていたのです。

しかし、あるとき、ふと立ち止まりました。
本当に足りていないのは、理由なのだろうか。

2. 懸念を潰す営業の限界

そこで気づいたのは、問題は「買わない理由」ではなく、「これを選びたい理由」なのではないか、ということでした。

「買わない理由がない」と「これを選びたい」は、似ているようでまったく違います。

懸念を潰すことは、いわば「マイナスをゼロにする」作業です。不安を取り除き、リスクを減らし、反対意見が出にくい状態を作る。これは確かに必要な営業活動です。

しかし、「ゼロからプラスへ」動かす力は、別のところにあります。

人は、「損をしない選択肢」を選んでいるわけではありません。
法人営業でも同じです。

稟議や比較検討では「納得」が求められますが、前に進むかどうかを決める最後の一押しは、「これを選びたい」という感覚です。

それは、個人だけの話ではありません。その判断に関わるチームや、組織にとっても同じです。
あの店も、そうでした。その店で過ごす時間が、自分にとってどんな意味を持つのか。それは一度も想像できませんでした。

法人営業でも、同じことが起きています。どれだけ理屈を積み上げても、お客様の中に「この選択が、

私たちの組織をどこへ連れていくのか」というイメージが生まれなければ、人は動きません。
人は合理性だけでは意思決定しません。未来が具体的に描けたとき、はじめて前に進むエネルギーが生まれるのです。

3. お客様の「実現したいこと」に想像力を向ける


それに気づいてから、私は問いを変えました。
課題や問題から入るのではなく、まず、こう聞くようにしたのです。

「今回の取り組みで、実現したいことは何ですか?」

この問いは、不思議な力を持っています。

相手は急に前のめりになるわけではありません。でも、身構えなくなります。「評価されている」「詰められている」という空気が消えるのです。すると、それまで資料に視線を落としていた担当者が、ふっと顔を上げる瞬間があります。

少し考えてから、自分たちの言葉で、ゆっくりと話し始める。そしてその語りの中に、組織として大切にしている価値観や、これまで言語化されてこなかった願いが、静かに表れてきます。

すると、課題は「指摘されるもの」ではなく、目指す未来を描いた結果として、自然に浮かび上がるものになります。

ファンが生まれる法人営業とは、説得された体験ではありません。
「この人は、私たちの目指すものを分かろうとしてくれた」そう感じられる体験です。

その結果として起きるのは、価格競争に巻き込まれにくくなること。比較表の中の一社ではなく、「まず相談したい相手」になること。そして、次の案件でも自然と声がかかる関係です。

4. おわりに


買わない理由を潰すことは、確かに必要です。

しかし、それはゴールではありません。ようやく、スタートラインに立ったに過ぎません。
そこから先、お客様の「実現したいこと」に、どこまで本気で想像力を向けられるか。

あの店を思い出すたびに、私は今でも、自分の法人営業の姿勢を、静かに問い直しています。
営業を育てるとは、懸念を潰す技術を教えることではなく、お客様の未来に想像力を向ける姿勢を育てることなのかもしれません。

高橋 研

代表取締役 CVO
早稲田大学大学院理工学研究科終了後、株式会社ファンケルに入社。
その後、30歳を節目に営業の世界に飛び込み、多くの会社の教育支援に携わる。
2013年株式会社アルヴァスデザイン設立。2018年「実践!インサイトセールス(プレジデント社)」出版。

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