論語と算盤(渋沢 栄一 著 2010年 筑摩書房社)~ ビジネスリーダーのための普遍的な指針~
こんにちは。荻原です。
今回のトップセールスの本棚では、アルヴァスデザインの代表取締役CVOである高橋さんに、渋沢栄一氏の「論語と算盤」から得られた学びについてお話を伺いました。
目次
1. 「論語と算盤」の魅力とは
荻原:本日はよろしくお願いします。高橋さんの人生に大きな影響を与えた書籍について、詳しくお聞かせください。
高橋:私が強く印象に残っている書籍は『論語と算盤』です。この本は、単なる渋沢栄一氏の著作というわけではなく、彼の講演内容から90の重要項目を選び、テーマ別に編集したものです。経営の本質を理解する上で、非常に示唆に富む内容となっています。
特に印象的なのは、本書で展開される「道徳と実利の両立」という考え方です。渋沢栄一氏は、「武士の精神」と「商人の才覚」を合わせ持つことの重要性を説いています。つまり、「士魂商才」という言葉に集約される、高い志と実務能力の調和を追求する思想です。
荻原:なるほど。現代のビジネスにも通じる考え方なのですね。
高橋:その通りです。本書が日本版のドラッカーと呼ばれる存在である理由の一つがそこにあります。経営の技術論だけでなく、その根底にある哲学や倫理観まで踏み込んで論じているのです。
例えば、利益追求と社会貢献の両立という現代的なテーマについても、深い示唆を与えてくれます。そして、これらの考えは経営だけでなく、社会全体の本質を理解する上でも非常に重要な視座を提供してくれます。
荻原:単なるビジネス書を超えた、より普遍的な指針となっているわけですね。
高橋:はい。特に江戸から近代国家への転換期という大きな変革期に、どのような価値観や行動指針が必要だったのかを考察する中で、現代にも通じる普遍的な知恵が詰まっています。
2. 「論語と算盤」との出会い
高橋:私がこの本に出会ったのは、ビジネススクールGLOBISで学んでいた時期でした。2002年から2010年頃まで、一科目ずつ学びながら、様々な人との出会いがありました。その中の先輩から本書を紹介されたのがきっかけです。
荻原:GLOBISでの学びと並行して読まれていたんですね。
高橋:そうなんです。当時かなり仕事もばたついていたこともあり、GLOBISでは、一科目を受講しては休み、また別の科目を受講するという具合に、自分のペースで学んでいました。その過程で出会った先輩から「経営を学ぶなら、この本は外せない」と強くおすすめ頂いたのです。
最初は難しい表現も多くて戸惑いましたが、読み進めるうちに、その深い洞察に引き込まれていきました。今では何度も読み返し、たくさんの線を引いている愛読書となっています。
荻原:読むたびに新しい気づきがあるのですか?
高橋:はい。面白いのは、この本は読むたびに違った発見があるんです。
例えば、若い頃は単純に経営の方法論として読んでいましたが、経験を重ねるにつれて、その奥にある人生哲学としての側面が見えてくるようになりました。そういう意味で、本当に奥の深い本だと実感しています。
3. 「論語と算盤」から得た学び
荻原:本書から得られた具体的な学びについて教えていただけますか?
高橋:本書から得た最も重要な学びは、「逆境との向き合い方」です。本書では、「人間が進化を試される時は逆境の時だ」と説いています。
特に印象的なのは、逆境を「人が作った逆境」と「人にはどうしようもない逆境」に区別する考え方です。
この二つは、対処の仕方が全く異なります。「人が作った逆境」の場合、その多くは実は自分自身の行動や判断から生まれたものであり、必要なのは真摯な反省と改善です。一方、「人にはどうしようもない逆境」は、むしろ自分の成長と進化が試される機会として捉えるべきだと教えています。
荻原:その学びを実際のビジネスシーンで活かされた経験はありますか?
高橋:はい。最も印象に残っているのは、コロナ禍への対応です。あの状況は誰にとってもどうしようもない逆境でした。正直、経営者として大きく動揺しましたし、どう対応すべきか悩みました。しかし、本書の教えを思い出し、これを成長の機会として捉え直したのです。
具体的には、「苦しいのは私たちだけではありません。お客様だって苦しいはずです。お客様の役に立てることなら採算度外視で構わないので何でもやってください」という方針を全社に打ち出しました。目先の売上げにこだわるのではなく、お客様への真摯な貢献に焦点を当てる。この決断は、本書から学んだ「逆境への向き合い方」が基になっています。
荻原:その結果はいかがでしたか?
高橋:結果として、コロナの時期には大赤字になりましたが1年後には多くのお客様が戻ってきてくれました。振り返ってみると、あの苦しい時期に本質的な価値提供に集中できたのは、本書から学んだ「逆境を成長の機会として捉える」という考え方があったからこそだと思います。時には大きく揺れることはあっても、根本的な判断を誤らなかったのは、この学びのおかげだと確信しています。
4. ビジネスへの具体的な活用法
荻原:具体的に、日々の経営にどのように活かされているのでしょうか?
高橋:主に二つの面で日常的に活かしています。
一つは、「課題への向き合い方」です。難易度が高い仕事や経験したことが無い仕事が舞い込んできた時、「良い成長機会をいただいてありがとうございます」と必ず声に出すようにしています。言葉にすることで、その課題に真摯に向き合う覚悟が生まれます。
荻原:それは面白い習慣ですね。他にはどんな点で活用されていますか?
高橋:もう一つは、「お金に対する考え方」です。本書では「よく集めることを知って、よく使うことを知らないと、最後は守銭奴になる」という非常に示唆に富む教えがあります。利益を追求することは大切ですが、それを適切に活用することも同じくらい重要だということです。
具体的には、社内での投資判断の際に、この考えを常に意識しています。
例えば、社員教育や環境整備への投資を検討する時、単純なコスト削減だけを考えるのではなく、その投資が将来どのような価値を生むのかという視点で判断するようにしています。
荻原:経営者として、難しい判断を迫られる時ですよね。
高橋:その通りです。投資を躊躇して機会を逃すのも問題ですし、かといって安易な投資判断も避けなければなりません。
本書の教えは、その判断の指針となってくれています。経営者として、ケチになりすぎず、かといって無駄遣いもしない、というバランス感覚の重要性を学びました。これは日々の小さな判断から、大きな投資判断まで、あらゆる場面で活きている学びですね。
5. 「論語と算盤」はどんな人におすすめですか?
荻原:どのような方に本書をおすすめしますか?
高橋:まず、ドラッカーのマネジメント理論に興味がある方にぜひお勧めします。実は、両者の考え方はかなり近いものがあります。本書は、東洋の知恵という異なる視点から同じような真理を説いているため、複数の観点から経営の本質を学べる良書だと思います。
荻原:ドラッカーのマネジメント理論と渋沢栄一の思想に共通点があるというのは、とても興味深いですね。具体的には、どのような点が似ているのでしょうか?
高橋:例えば、ドラッカーが説く「企業の社会的責任」と、渋沢栄一の「道徳経済合一説」は、アプローチは違えども、本質的には同じことを説いていると私は感じています。企業は単に利益を追求するだけでなく、社会的な意義を持つことが重要だという考え方ですね。
荻原:確かに、現代の企業経営でも「社会貢献」と「利益の両立」は大きなテーマになっていますね。
高橋:そうですね。そうした視点で読むと、本書は単なる実務書ではなく、「人生哲学」としても読める深い内容になっています。若手のビジネスパーソンにはキャリアの指針として、中堅社員にはリーダーシップの在り方を学ぶために、経営者には経営哲学の確立のために――それぞれの立場や経験に応じた学びが得られる、懐の深い本だと確信しています。
荻原:最後に、これから本書を読む方へのアドバイスをいただけますか?
高橋:最初は難しく感じるかもしれませんが、ご自身の経験と照らし合わせながら、じっくりと読んでいただきたいです。そして、できれば定期的に読み返すことをおすすめします。経験を重ねるごとに、新たな気づきが得られる、そんな一生の伴侶となる本だと思います。
荻原:本日は、貴重なお時間をありがとうございました。実は私も以前、本書を読もうとしたことがあったのですが、途中で挫折してしまっていて…。でも、今日のお話を伺って、改めて読み直してみたいと思いました。現代語訳版もあるので、そちらから挑戦してみようかなと思います。
高橋:そうですね。現代語訳版から入るのも良い方法だと思います。ぜひじっくりと読んでみてください。本日はありがとうございました。
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荻原エデル
社内では、デザイン関係や営業支援をメインで担当しています!最近は動画編集も始めました。
趣味は筋トレ、空手、映画鑑賞、読書。インドア人間です。
高橋 研
代表取締役 CVO
早稲田大学大学院理工学研究科終了後、株式会社ファンケルに入社。
その後、30歳を節目に営業の世界に飛び込み、多くの会社の教育支援に携わる。
2013年株式会社アルヴァスデザイン設立。2018年「実践!インサイトセールス(プレジデント社)」出版。