ALVAS JOURNAL

<トップセールスの本棚>価格の心理学(リー・コールドウェル著 2013年 日本実業出版社)~顧客目線の価格設定が、営業の次のステージを拓く~

こんにちは。荻原です。

今回も引き続き、トップセールスの本棚をインタビュー形式でお届けします。

本日インタビューに答えてくださったのは、アルヴァスデザインの人材開発事業部マネージャー・岩脇さんです。新規事業の立ち上げを経験する中で出会い、価格設定とビジネスの本質的な見方を根底から変えてくれた一冊として、『価格の心理学』をご紹介いただきました。

是非、ご一読ください。

 

目次

1. 価格を決める側になって初めて、見えてきたもの

荻原:本日はよろしくお願いします。今回ご紹介いただく書籍について、まず教えていただけますか?

岩脇:はい、今日紹介したいのは『価格の心理学』という本です。著者はリー・コールドウェルというイギリス人の認知・行動経済学者で、日本語に翻訳された一冊になります。アメリカ市場での事例を軸に、価格設定の本質と顧客心理について体系的に書かれています。

荻原:どのような経緯で出会われたのですか?

岩脇:もともとこの本を紹介してくれたのは、社長をやっている友人です。当時、私はちょうど新規事業の立ち上げに携わっていて、サービスの料金設定という課題に直面していました。

無形のサービスをゼロから作り、それをいくらで売るか自分たちで決めなければならない。でも、それまでの私は会社から与えられた価格表で営業してきただけで、「価格を決める」という経験がまったくありませんでした。

荻原:確かに、与えられた価格を売るのと、自分で価格を設定するのとでは、まったく異なる思考が必要ですね。

岩脇:はい。どう考えたら良いのだろうと悩んでいたちょうどその時期に、この本を勧めてもらいました。

読んでみると、価格設定のことだけでなく、そもそもサービスや事業をどう捉えるかという根本的な視点まで書かれていて、非常に大きな気づきを得ました。それ以来、ずっと印象に残っている一冊です。

荻原:新規事業という実務の場で直面した問いに、本書が答えてくれたわけですね。

岩脇:まさにそうです。価格という切り口から、ビジネスの本質に迫っている本だと思います。

2. 価格は、コストではなく顧客の「価値」で決まる

荻原:本書の核心的なメッセージについて、もう少し詳しく教えてください。

岩脇:本書には価格設定の7つの原則が示されていて、その中でも特に印象的だったのが最初の原則です。「価格は企業側のコストではなく、顧客にとっての価値を基準に設定する」というものです。

荻原:シンプルに聞こえますが、実際の現場ではなかなか難しそうです。

岩脇:現場では往々にして、自社の工数・人件費・オペレーションコストといった「こちら側の費用」から価格を逆算しがちです。もちろん粗利や利益率は大切です。

でも本来は「お客様にとってこのサービスがどれだけの価値があるか」という視点から始めるべきだ、というのが本書の主張です。

荻原:費用積み上げ型の価格設定では、本当の価値が反映されないということでしょうか。

岩脇:その通りです。その視点で改めて考えると、顧客にとって価値が高ければ、自信を持って高い価格を設定すべきだということになります。逆に、顧客にとってあまり価値を感じにくいものを、こちら側の都合で高く設定しても意味がない。
本書を読んで、「価格とは、そういった本質的なところから考えるべきなのだ」と強く感じました。

荻原:確かに、価格設定の議論をするとき、往々にして競合比較や値引き要請に引きずられてしまいがちですが、まずは顧客の価値認識を起点にするということですね。

岩脇:そうですね。本書では、理由のない値引きは自社の価値を自らが否定する行為だという考え方も示されています。価値のあるものに適切な価格を設定することは、顧客への誠実さでもあるのだと思います。

荻原:単なるテクニック論ではなく、ビジネスの姿勢そのものに関わる話ですね。

岩脇:本当にそうです。この原則だけでも十分深い内容ですが、本書にはさらに重要な概念が続きます。

3. チョコレートポットが教えてくれる「ストーリー」の力

荻原:ぜひ続きも聞かせてください。他にどのような内容が印象に残っていますか?

岩脇:本書全体を通して登場する「チョコレートポット」の事例が非常に面白くて、印象に残っています。
17〜18世紀のヨーロッパでホットチョコレートを作るために使われた器具を題材に、本書ではこれを架空の新商品として、価格とポジショニングの本質を学ぶ教材に使っています。

荻原:具体的にはどんな話なのですか?

岩脇:例えば、チョコレートポットとそのポーション(専用のチョコレート原料)をドラッグストアのインスタントコーヒー売り場に並べるとします。そこに来る顧客はインスタントコーヒーや紅茶を千円前後で買っているわけですから、同じ棚にポーションを二千円で置いても誰も買わないですし、当然その専用のチョコレートポットを一万円で売っても買ってもらえないわけです。顧客の価値観とまったくずれているのが原因です。

荻原:確かに。では、どうすれば良いのでしょうか?

岩脇:同じ商品でも、高級家具店に置けば話が変わります。高級ソファーが数十万〜百万円する売り場の中に、アンティーク調のチョコレートポットを置いて二十万円で販売する。すると、「自宅に高級感のある空間を作りたい」というお客様からすると、違和感なく受け入れてもらえる可能性があります。

荻原:同じ商品なのに、置く場所と周囲との比較対象が変わるだけで、価格の適正感まで変わるのですね。

岩脇:はい。さらに重要なのは、「何を提供しているか」の定義が変わるという点です。ドラッグストアに置く場合は「美味しいチョコレート飲料」を売っているわけです。でも高級家具店に置く場合は、「休日に優雅なひとときを過ごせる生活空間」を売っている。
同じ物体でも、顧客に届ける価値のストーリーがまったく異なります。

荻原:「何を売るか」ではなく「何の価値を届けるか」で価格が決まる、ということですね。

岩脇:まさにそこが核心です。
このストーリーの違いによって、売り場も、価格帯も、さらには営業担当者の身なりや言葉遣いまで変わってくる。高級家具の高級ソファー売り場でチョコレートポットを売るなら、高級感のある装いが自然でしょう。
ドラッグストアの売り場なら、お客様が困った時に声をかけやすいような親しみやすい服装や身なりの方が良いですね。
ストーリーは外見や振る舞いにまで影響します。

荻原:なるほど。なかなか興味深いですね。

岩脇:本書ではこれを「アンカー」という概念で整理しています。
比較の対象、つまりアンカーをどこに設定するかによって、顧客の価格認識が決まるという考え方です。
インスタントコーヒーをアンカーにするのか、高級家具をアンカーにするのかで、同じ商品への価格評価がまったく変わってくる。どの文脈に商品を置くかという戦略が、価格設定の根幹をなしているわけです。

4. 「ただの営業パーソン」から、視座を一段上げるきっかけ


荻原:本書から得た学びは、岩脇さん自身の仕事にどのような変化をもたらしましたか?

岩脇:一言で言うと、「視座が上がった」という感覚です。それまでの私は、営業スキルの磨き方、商談の進め方、説明の仕方といった「売るための技術」ばかりに意識が向いていました。
しかし、本書を読んで、その一段上に「何をどんな顧客にどんなストーリーで届けるか」という視点があることを、はっきりと認識できました。

荻原:営業の上流にあるものが見えてきた、ということですね。

岩脇:そうです。この視座がないと、価格の意味を説明できない。
例えば、同じサービスを扱う競合他社より高い価格を提示した時、「なぜ自社の価格はこうなのか」というストーリーを自信を持って語れるかどうかが、受注の分かれ目になります。価格の根拠はコスト計算ではなく、顧客に届ける価値のストーリーにある。それを理解したことで、商談での向き合い方も変わりました。

荻原:本書で得た気づきは、新規事業の立ち上げ時だけでなく、その後の営業活動全般に生きているわけですね。

岩脇:はい。しかも本書は、価格という身近なテーマを切り口にしているので、非常に読みやすいです。専門的な行動経済学の理論も、チョコレートポットのストーリーという具体的な事例を通じて展開されるため、実務との接続がしやすい。

巻末には「価格の適正診断」として30項目のチェックリストもあり、自社のサービスや商品の価格設定を実際に見直す際のツールとしても活用できます。

荻原:理論と実践の両面が揃った一冊ですね。

5. 「もう一皮剥けたい」すべてのビジネスパーソンへ


荻原:どのような方に特におすすめですか?

岩脇:個人的な経験から言うと、「ただの営業担当者」の段階から次のステージに上がりたいと考えている人に、ぜひ読んでほしいです。
営業担当者として一定の成果は出てきた。でも、もう一皮剥けてもう一段上の視座で仕事を捉えたい。そういう方には大きな気づきになると思います。

荻原:営業職以外の方にはいかがでしょうか?

岩脇:マーケティング担当者や、事業全体を見渡すポジションにある方にも非常に有益だと思います。マーケと営業は連携が難しいと言われますが、その根本にあるのは「どんなストーリーで、どんな顧客に、どんな価値を届けるか」という共通の問いです。その問いを共有できれば、双方の連携も深まるのではないでしょうか。

荻原:確かに、部門を超えて共通言語になり得る内容ですね。

岩脇:価格とストーリーを軸にビジネスの本質を語ってくれるという意味で、この本は部門や職種を選ばないと思います。
特に新しいサービスや商品の価格設定を考えるとき、「そもそも自分たちは何の価値をどんな顧客に届けるのか」という問いからスタートする習慣づけに、本書は最良の一冊だと私は感じました。

荻原:まず自社のサービスや商品の価値ストーリーを言語化してみることが、最初の一歩になりそうですね。

岩脇:そうですね。「うちの商品は誰に何の価値を届けているか、そのストーリーを語れるか」を問い直すところから始めてみるといいのではないでしょうか。その視点が定まれば、価格設定も、営業のアプローチも、自ずと変わっていくはずです。

荻原:本日は大変示唆に富んだお話をありがとうございました。

岩脇:こちらこそ、ありがとうございました。

本日ご紹介した本のAmazonリンクはこちら⇒価格の心理学

〇トップセールスの本棚とは?
【毎週月曜日配信】弊社の社員はじめ、トップセールス経験者が厳選した本をご紹介しています。
営業におけるスキルのみならず、幅広い視点から営業を捉えていたりもします。
ぜひ、営業パーソンにとどまらず様々な職種の方にも読んでいただきたいです。

荻原エデル

社内では、デザイン関係や営業支援をメインで担当しています!最近は動画編集も始めました。
趣味は筋トレ、空手、映画鑑賞、読書。インドア人間です。

岩脇泳喜

石川県出身。
前職では大手医療系人材会社にて、新規事業である健康経営事業の営業責任者として従事し、後発の事業ながら2024年には業界No.1の顧客数を達成。その後アルヴァスデザインに入社。
20代まではポンコツ営業パーソンだったため、そこからの成長角度は誰にも負けない自信あり。
二児のパパで、野球好き。DeNAファンで、年に3、4回は横浜スタジアムに応援に行っている。

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