ALVAS JOURNAL

【第5回】価値を高める 「インサイトセールス」 いま、生き残るための営業術(輸送経済新聞 2021年2月16日掲載記事)

「営業はこの先10年で、なくなるのだろうか?」―。もう何年も営業担当者向けの人材開発をなりわいとしているので、こういった質問をよくもらう。
未来のことだから確実なことは言えないが、多くの営業は淘汰(とうた)される可能性が高いと考えている。
ただし、一部の営業手法を駆使している営業を除いてだ。その一部の営業手法とは何なのか、私の実体験を基に探っていきたい。

 

衝撃的な出合い

8年前、私が会社員だった頃の話だ。某トラックメーカー営業担当者向けの人材育成を担っていた私は、同社取締役へ提案をした。提案内容は、課題に対して解決策を提示するもので、一般的には「ソリューションセールス」と呼ばれている。
提案が終わった後、ふと私は取締役に対して「経営ビジョン」に関する質問を投げ掛けた。
特に意図しなかった問いだったが、場の雰囲気は一変した。提案をしていた時とは打って変わって対話も盛り上がり、数え切れないくらいのアイデアも生まれたのだ。

私は熱が冷めないうちに、出てきたアイデアをまとめて資料を取締役に送付した。すると後日、その取締役から電話が入り、信じられない言葉をもらった。
「高橋君が作成してくれた資料、そのまま経営会議や株主総会で使っていい?」と。

私にとってこの言葉との出合いは、驚きを超えて感動体験にまでなった。
営業とは、課題解決という表層的なものだけではなく、会社や人生を根本から支えることができる。そんな仕事だと実感したからだ。
時を同じくして2012年12月。
ビジネス誌の『ハーバードビジネスレビュー』(HBR)で
「ソリューションセールスは終わった」という衝撃的な記事に出合った。
記事には、

課題解決を顧客に提案しても、もはや競争力とはなり得ない

と書かれていた。当時の日本は、ソリューションセールスの全盛期。記事を読んだ営業担当者の多くは「ソリューションセールスはまだ終わらない」と思っただろう。
だが私にとってこの記事は、トラックメーカーの取締役とのやりとりとシンクロしたのだ。

経営者の思いを探る

当時、ソリューションセールスに力を注ぐものの、納品物やその時期といった条件面や大量取引により、割引価格で仕入れるボリュームディスカウント、出精値引きなどの価格面の壁にぶつかって四苦八苦していた私には、一筋の明るい道が見えた。
その道が、HBRで旧来の手法に取って代わると比較されていた「インサイトセールス」と呼ばれるものだ=図。

「気付かなかったニーズを顧客に気付かせる手法」と付け加えられており、その日から、営業としての可能性を広げてくれた存在となった。
具体的にインサイトセールスとはどういうものかというと、

〝顧客の真のニーズを探ること〟

に他ならない。
そして真のニーズとは、突き詰めていくと「経営者の価値観や目指したい世界観」だ。
企業というのは、この経営者の思いを基に組織され、事業を営んでいると言える。
だからこそ、本当に顧客の支援をしたいのならば「経営者の思い」を理解することを先決させなければならないのだ。

インサイトセールスは、もはや営業技能の一つなどではない。
なぜならば、営業を通して人間の自己実現を一緒にかなえるものだからだ。
経営者の人生の価値観に触れて、ありたいビジョンに伴走する営業こそ、これからも活躍し続ける一部の営業であるに違いない。
そして私も、そんな一部の営業であり続けたいと考えている。

 

代表取締役 CVO
早稲田大学大学院理工学研究科終了後、株式会社ファンケルに入社。
その後、30歳を節目に営業の世界に飛び込み、多くの会社の教育支援に携わる。
2013年(株)アルヴァスデザイン設立。著書に「実践!インサイトセールス(プレジデント社)」。

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だって、まだまだ
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