【第2回/ATD報告会シリーズ】意思決定をAIに委ねるとき、失われるもの 〜「考える力」と「共感力」〜
こんにちは。荻原です。
アルヴァスデザイン代表取締役CVO・高橋研さんに、ATDの国際カンファレンス報告会での学びを伺うシリーズ。前回は、会場に渦巻いていた「AIへの恐怖」と、その正体である〈知性の侵食〉についてお伝えしました。
第2回のテーマは、私たちがAIに「意思決定」まで委ねたとき、何が失われるのか。考える力と、そして共感力のお話です。
本シリーズの全3回の内、本記事は、第2回目になります。
第1回 AIに知性を明け渡さないために 〜ATD2026報告会で感じた、静かな危機感〜
第2回 意思決定をAIに委ねるとき、失われるもの(←今回の記事はこちら)
第3回 人への投資が減る時代に、人にしかできないこと 〜「共感力」という戦略スキル〜(8/26公開予定)
目次
1. AIに任せても、人に残るのは「意思決定」

荻原:前回、AIに考える作業を任せるほど、考える力が衰えていく、というお話がありました。とはいえ、AIに任せられる仕事は、増える一方です。最後に、人間の手に残るのは、どこなのでしょうか。
高橋:報告会でも、最後まで人に残るのは「意思決定」だと語られていました。私も、そう考えています。選択肢を並べることは、AIがとても得意です。けれど、その中からどれを選ぶのかを決めるのは、人の役割として残ります。
荻原:選ぶ、というその一点が、残るのですね。
高橋:はい。そして、選ぶためには、考えなければなりません。裏を返せば、意思決定を手放してしまうと、いちばん大事なものまで一緒に明け渡すことになるのだと、私は捉えています。
荻原:便利になるほど、つい「これでいいか」と、AIの示した順番のまま選んでしまいそうです。その一線を、自分で握っておけるかどうか、ですね。
高橋:おっしゃる通りだと思います。決めることを面倒に感じて、その一線を手放した瞬間から、明け渡しは少しずつ始まるのだと思います。
2. 対人関係の意思決定を、AIに委ねると

荻原:意思決定にも、いろいろな種類があります。仕事の段取りを決めることもあれば、数字を見て判断することもあります。その中で、特に気をつけるべきことはありますか。
高橋:報告会で強く印象に残ったのは、対人関係の意思決定を、AIに委ねたときの危うさです。人とどう向き合い、どんな言葉をかけるか。そこをAIに肩代わりさせた瞬間、考える力と共感力が、同時に衰えはじめる、と語られていました。
荻原:考える力だけでなく、共感力も、ですか。
高橋:はい。ここは私なりに補いますが、相手のことを、自分の頭で想像しなくなるからだと思います。どう言えば伝わるか、相手は今どんな気持ちか。その想像こそが共感の入り口なのに、答えを外から受け取ってしまうと、その回路を使わなくなるのです。
荻原:使わない筋肉が細っていくように、想像する力も、使わなければ鈍っていく、ということですね。
高橋:そう考えています。しかも厄介なのは、考える力のときと同じで、その衰えに自分では気づきにくい、という点です。
3. AIに答えを教わるほど、人を想像しなくなる

荻原:先ほど、対人関係の意思決定をAIに委ねると、共感力まで衰えていく、と伺いました。それは、具体的には、どんな場面で表れるのでしょうか。
高橋:たとえば、相手に何と言えば喜ばれるかを、AIに尋ねてから話す場面です。会話としては、うまく運ぶかもしれません。しかし、そのとき自分は、相手が本当は何を感じているのかを、もう考えていません。答えを外から受け取ったぶん、相手を想像する手間を、そっくり省いてしまうのです。
荻原:なるほど。うまくいっているように見えて、頭の中では、いちばん大事な想像を、飛ばしてしまっているのですね。
高橋:そうなのです。そして、自分の頭で相手を想像しなくなると、尊重しているつもりが、いつのまにか迎合に近づいていきます。人と関わる仕事をする人間として、これは見過ごせないことだと感じました。
荻原:尊重と迎合は、どこで分かれるのでしょうか。
高橋:相手を想像したうえでかけた言葉か、想像を省いて、機嫌を取っただけの言葉か。その違いなのだと思います。
4. AIは忖度する。だから「ヒント」に留める

荻原:いまの「迎合」で、思い当たることがあります。実は、AIの側にも、似たところがあるように感じています。利用者が聞きたい答えに、寄せてくるのです。この点は、報告会でも語られていましたか。
高橋:まさに、そこが語られていました。だからこそ、自分の中にあるはずの答えまでAIに出してもらう、そういう使い方は危うい、と指摘されていました。いま、AIコーチングと呼ばれるものが広がっていますが、これを、自分の答えを見つける道具にしてしまうと、考える力の低下に直結します。あくまでヒントに留めるべきだ、というのです。
荻原:答えを出す道具ではなく、考えるきっかけにする、ということですね。
高橋:その線引きを、どこに引くか。これからは、そこが問われるのだと思います。
5. メタ認知と、弱さに気づく力

荻原:AIに考えを明け渡さないために、私たちは何を持っておくべきなのでしょうか。
高橋:報告会で、繰り返し出ていたのが「メタ認知」という言葉です。自分が今、何を考え、どんな偏りを持っているのかを、一歩引いて眺める力のことです。
荻原:自分を、もう一人の自分が見ている感覚ですね。
高橋:面白いのは、そのメタ認知を、AIが手助けしてくれることもある、という点です。たとえば、AIの出した答えを見て、思わず「これは良い、いただこう」と感じる瞬間があるかと思います。
荻原:ありますね。自分では出てこなかった切り口に、ぱっと飛びついてしまいます。
高橋:私の解釈ですが、そうやって思わず飛びついたところが、たいてい自分の弱い分野なのです。自分一人では、そこに思いを馳せられなかったのだと思います。だからこそ、新鮮に映るのです。
荻原:なるほど。AIに感心した瞬間こそ、自分の穴が見えている、ということですね。
高橋:そうなのです。「これは良い」で終わらせず、「なぜ自分は、ここに気づけなかったのか」と、一段問い返せるか。その問い返しこそが、メタ認知です。AIは、私たちの知性を奪う相手にも、鍛える相棒にもなります。どちらになるかは、使う側の問い方しだいなのだと思います。
荻原:感心して、写して終わるのか。感心して、自分の穴を知るのか。同じAIでも、後に残るものが、まるで違いますね。
高橋:その違いが、これから効いてくるのだと、私は考えています。
荻原:考える力と、共感力。AIに委ねれば、どちらも静かに失われていきます。けれど、向き合い方ひとつで、鍛えることもできます。同じ相手が、敵にも味方にもなるのですね。次回(第3回)は、その「共感力」に焦点を当てます。人への投資が世界的に減っていく時代に、なぜ共感こそが武器になるのか。報告会で示された、いくつもの数字とともに伺います。
荻原エデル
社内では、デザイン関係や営業支援をメインで担当しています!最近は動画編集も始めました。
趣味は筋トレ、空手、映画鑑賞、読書。インドア人間です。
高橋 研
代表取締役 CVO
早稲田大学大学院理工学研究科終了後、株式会社ファンケルに入社。
その後、30歳を節目に営業の世界に飛び込み、多くの会社の教育支援に携わる。
2013年株式会社アルヴァスデザイン設立。2018年「実践!インサイトセールス(プレジデント社)」出版。

