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研修のファシリテーションにおける問いかけの技法について理論・事例・エクササイズ・実験的演習を通して探求する  〜ワークショップデザイン論の研究と実践の蓄積を背景に〜

2018年2月23日、東京大学大学院情報学環特任助教(株式会社ミミクリデザイン代表取締役)の安斎勇樹様に、弊社ワークショップ会場にて、「ファシリテーションにおける問いかけの技法を探るーワークショップデザイン論から考える研修進行」というタイトルで講義をしていただきました。

受講生は弊社のパートナー講師の皆様とプロデューサー陣です。

 

ワークショップとは

ワークショップデザインの対象となる「問い」には、

  1. 事前のプログラムデザイン段階における問いの設定 と
  2. 進行最中のファシリテーションにおける問いかけ の2種類があります。

今回は「ファシリテーションにおける問いのデザイン」に焦点をあて、グループワークを重ねながら体感して学ぶことができました。

ワークショップ定義の確認ですが、ワークショップとは、<普段とは異なるものの見方から発想するコラボレーションによる学びと創造の方法>です。

研修設計には、二つの種類があります。
インストラクショナルデザインとワークショップデザインです。

インストラクショナルデザインの特徴としては、

  • 段階的な学習活動を構成する。
  • 学習者の達成度を一律に評価する。

ということがあります。

ワークショップデザインには、

  • 普段とは異なる視点を提示する。
  • 気づきや着地点は学習者に委ねる。

という特徴があります。

イメージとしては、階段的と梯子的な違いがあります。

インストラクショナルデザインは階段、ワークショップデザインは梯子のようなイメージの違い

ワークショップにおいては、「問い」が重要です。
「問い」のデザイン論の全体像としては、以下2つとなります。

  1. プログラムデザインにおける問いのデザイン
  2. ファシリテーションにおける問いのデザイン

I プログラムデザインにおける問いのデザイン

1. 学習目標に合わせた適切なプログラムを設計する
2. よく練られた課題設定(メインテーマの問い)が肝
  1. ひねりを加える
    ・普段とは異なる視点から考えられる制約を設定する
    ex)逆転させる、矛盾させる、一見無関係な要素を結びつける
  2. 遊びの要素を加える
    ・楽しく没頭できる遊びのアクティビティに問いを埋め込む
    ex)ごっこ遊び、見立て遊び、探検遊び、創作遊びなど
  3. Hard-Funのバランスをとる
    ・難しすぎず、自由すぎず、「苦しいけど楽しい」を意識する
    (学習は、無我夢中の試行錯誤のなかで生まれる!)
3. 複数の問い(ワーク)を戦略的に組み合わせる
    1. 効果的な問いのパターン例

 

  1. 点数化 曖昧な価値に対して具体的な点数をつけさせる
    効果:議論の具体化、経験の振り返り
  2. グラフ化 曖昧な価値の変遷を時系列でグラフに描画させる
    効果: 法則の発見、経験の振り返り
  3. もし‥ もし◯◯だったら‥ 架空の設定で想像させる
    効果:固定観念の破壊、アイデアの創発
  4. 矛盾 固定観念に相反する 方向性であえて考えさせる
    効果:固定観念の破壊、アイデアの創発
  5. そもそも 当たり前になっている 前提の意義をあえて考えさせる
    効果:固定観念の破壊、前提の再解釈
ワークショップ・ファシリテーターの4つのタイプ

II ファシリテーションにおける問いのデザイン

1. 研修の様々な場面で状況に応じて問いかける
2. 即興力×多視点解釈力がカギ

目の前の事象を多角的に捉え直し、問い直したり、別のものと連想させる。
「即興力・多視点解釈力」をグループの1人(プレゼンテーター)が机の上にあるものを使用して1分間プレゼンテーションをし、その後、グループの他のメンバーが多面的に質問を投げかけるというグループワークを通して考えました。

3. 4つの問いのパターンを使い分ける

例:リンゴアメ

  1. シンプル・クエスチョン
    <受講者の発表・行動に対する素朴な疑問>
    ex. どんな味ですか?
  2. ティーチング・クエスチョン
    <受講者を教育目標に導くための質問によるフィードバック>
    ex. アメの競合って何ですか?
  3. コーチング・クエスチョン
    <受講者の意欲、思考、価値観を引き出すための問いかけ>
    ex. 女性におススメなのはなぜですか?
  4. フィロソフィカル・クエスチョン
    <学習テーマをより深めるための探求的な問いかけ>
    ex. あなたにとってアメって何ですか?
ワークショップ・ファシリテーターの4つのタイプの誰が答えを持っているか

はっきりと分類できるものもあれば、どこに当てはまるのか曖昧な質問もあり、講師の方々も悩みながらのグループワークだった印象でした。

シンプルクエスチョンは質問者の意図によってはティーチングや、コーチングクエスチョンになる可能性がある、などといった安斎先生からの解説後に改めてグループごとに分類をし直してみると、シンプル・クエスチョンだと思っていたものがコーチング・クエスチョンだった、逆にシンプルクエスチョンだった、などといった新しい結果へとたどり着きました。

分類表を見てフィロソフィカル・クエスチョンをあまりしていない事実や、自分はこのクエスチョンが得意分野である、など、講師の方々も改めて自身の強み・弱み、問い方のスタンスに気付けた様子でした。

4. メタな大問を持って、具体的な小問を投げる

コーチング・クエスチョンはメタな問いが鍵?

メタな問い
例:“~さんはファシリテーションによって誰にどんな価値を生みたいのか”

具体的な問いは

  • どんな対象に研修を?
  • それはいつから?
  • 今後もその営業研修は続けていくのですか?
  • ~さんにとって良い営業研修ってなんですか?
  • ロールモデルとなるファシリテーターはいますか?
  • もし研修以外でももっと企業に入り込めるとしたら、どんな支援をしたいですか?
  • ~さんの研修で、世の中がどうなったらハッピーですか?…etc

コーチング・クエスチョンはペアインタビューという実践型で学びました。

質問する側、される側とに分かれ、質問する側は相手にとって「ファシリテータ―としての内省の機会になる」ことを目指してインタビューをし、その後「問い」を分析することによって良いコーチング・クエスチョンのポイントと使うべき場面を考えました。

良いコーチング・クエスチョンは固定概念を崩す、そもそもの前提を変えてしまう、視野を広げる、ゼロベースで考え答えを出していける質問ではないかという講師の方々のコメントが印象的でした。

5. ゴールとの差分から問いで耳の痛いところを突く
    • 教育目標に対して至っていない点を質問によって気付かせる

 

  • ex. 思考停止・責任転嫁・主体性不足
    →「~さんはどうすればいいと思いますか?」(改善策を問う)
  • ex:視点不足・他人の立場に立てていない
    →「~さんが上司だったら、この職場をどう変えますか?」
    →「~さんがお客さんだったら、どんな感想を持ちますか?」
  • ex:視野が狭い・言い訳が多い
    →「他に原因はありますか?」とどんどん喋らせ、視野を広げつつ、矛盾を浮き彫りにする
    参考:フィードバック入門(中原 2017)

ティーチング・クエスチョンは信頼関係を築いておかないと空回りしてしまう、何がどう違うのかきちんと情報収集をしておかないと上からの質問になってしまい、受講者に不快な思いをさせてしまう、などといったポイントをご説明いただきました。
その後、講師の方々のティーチング・クエスチョンの例、工夫、使い分け、難しさなどをグループで共有しました。
受講生との信頼関係の必要性や、シンプル・クエスチョン、コーチング・クエスチョンの組み合わせによってティーチング・クエスチョンだと思わせずに、受講者から引き出すことが効果的であるといった意見が出ました。

6. フィロソフィカル・クエスチョンの位置付けと意義

学習テーマをより深めるための探求的な問い(研修においてすぐに答えは出せないが、長期的に考える価値のある本質的な問い)

最後にフィロソフィカル・クエスチョンの位置づけと意義について解説して頂きました。
フィロソフィカル・クエスチョンは後半や終盤でじわじわ考える、もやもやした気持ちをあえて残すために使うのが有効ではないだろうか。という安斎さんの考えに対して講師の方々も納得のご様子でした。

ファシリテーターが研修の学習目標自体を疑い、哲学者としてこの研修がここでやる意味があるものなのかということを斜めから眺め、それを学習者と共有して深い探求をしていく姿勢が大切であるとおっしゃっていました。

プログラム終了後も講師の方々からたくさんの質問が出たり、さらに深いディスカッションへと繋がったりと、全体のモチベーションが上がっていたように見受けられました。
私自身もその後の研修を見学させていただいた際に、講師の「問い」に注目してその意図や、4つの分類を実践することができました。

今回の講義を通して参加者全員が、改めて研修時に受講生にとって考えを深める「問い」とは何か、その意義などを実感する良い機会になりました。

ご参加いただいた方々の感想

【鵜川様】
今、私自身あらためて「問い」というものに対しての関心が高まっていて、そういう意味ではまさにタイムリーで且つ内容の濃い時間を過ごさせてもらった感じがしています。

特にわたしは、前半の様々な取り組み事例が、とても参考になり、イメージも湧き、すごく役に立つ感がありました。我々がファシリテーションする際にも、その問いのクオリティによって、場の深まりや広がりが変っていくことをあらためて実感しました。と同時に、日常様々な生活や仕事の中で使える「良質な問いをつくる力」を育むこと自体がとても有意義なんじゃないかとあらためて思いを深めたりもしました。

安斎さんのつくられる他のワークショップにも参加してみたいと思っています。あらためてありがとうございました!

【門田様】
お世話になりますMON門田です。この度は、特別講義を実施していただきありがとうございました。

私自身、講師やファシリテーションを生業とする人間として、ここまで「問い」に対して深く考えたことがありませんでした。また、そのその影響力についても理解できていませんでした。間違いなく今後に向けて深く考えるべきテーマとなりました。その意味から考えると、今回の講義自体がフィロソフィカル・クエッションだったのではないか?と感じております。まさに「長期的に考える価値のある本質的な問い」でした。

これからは「問い」の質と影響力を念頭に受講生と向き合います。深い学びと深い気づきをありがとうございました。

【山田様】
安斎先生、素晴らしい時間をありがとうございました。研修の場での問いは、意図を持って行っているつもりでしたが、だいぶ浅かったと痛感しました。特に印象に残っているのは、ティーチング・クエスチョンが発問という点です。これは、自分の考えにはありませんでしたが、非常に重要だと感じました。これから整理して、理解を深めたいです。

【斉藤様】

  • とても流暢な話法は大変勉強になりました。自分もああなりたいものです。
  • 最初のセッションの「過去の取り組み」がとても面白かったかったです。
    モノには色々な見方があることを再認識しました。
  • 「クリエイティブな議論」の定義とその証明の過程は大変興味深かったです。
  • 質問の4つのパターンをMECEにすることは出来ないだろうか?
  • 少しひねった質問、早速自分の研修などで取り入れてみます。
  • ありがとうございました!

【加藤様】
この度は貴重な講義をしていただき、ありがとうございました。
「ワークショップデザイン論から考える研修進行」というテーマは大変興味深く、楽しみにしておりましたが、期待を大きく上回る素晴らしい内容でした。

通常、研修開発は「講義部分」をまず固めてから、それにふさわしいワークショップを考える、という順番で実施しておりますが、ワークショップからの気付きの可能性を考えると、「初めにワークショップあり」という開発手法もあるのだろうと感じました。ただしその場合は「問いの質」、「回答に対する高度な対応」というようなファシリテーター側の高度なスキルが求められますね。ますます勉強が必要だと感じました。

色々な面で刺激的な講義でした。少しでも安斎ワールドに近づけるよう精進してゆきます。今後ともよろしくお願いいたします。
「問いのデザイン」のご執筆、頑張ってください!

【藤田様】
素晴らしい講座、ありがとうございました!「問い」「ワークショップ」についてすごく大きな「学び」がありました。
ご著書も早速購入し、勉強しております。またゆっくりお話しさせてください!

【矢野】
問いの意義は答えを出すことよりも問い続けることが重要だと改めて感じました。
研修業をやっていると「枠」という一意に落ち着いてしまうことは、思考を凝り固める真因になっていると痛感しました。
また、KDDIの事例からも逆説的な問いは枠からはみ出すためには有効な手段になると思い大変勉強になりました。

【田幡】
途中から、「問いの力で質を上げる」という、ある種の汎用的なテーマでの研修プログラムを開発している気持ちで参加していました。講師・ファシリテーターのスキルというだけでなく、例えばマネジメント研修においても、ロジカルシンキング研修においても、「より良い問いを持つ」という論に行き着くことが多々あるからです。
また、安斎さんが「今回の内容は、答えではなく試み」と仰っていたので、自然と開発者目線になったのかもしれません。

今は、セルフマネジメント、ロジカル思考、システム思考、デザイン思考あたりの知見を活用して、ビジネスパーソン全般に向けた「問いを持つ力向上研修」みたいなコンテンツが創れないか、という妄想をしています(笑)

大変勉強になりました。
今後とも、どうぞ宜しくお願いいたします。

【石井】
「問い」との向き合い方が大切であると感じました。
講師と営業現場双方において、問いかけで相手の関心事に触れることは大前提として、いかに、「ひねり」を加えることが出来るかがカギであることを学びました。
また、「良い問い」とはその場だけではなく様々なシーンで思い出し、再考したくなるようなものである考えています。(本WSの「フィロソフィカル・クエスチョン」がそれにあたると思いますが…。)その問いを研修後も持続的に考えてもらうようにするには、どのような工夫が必要かを考えてみたいと思います。

【関谷】
「問い」というものに対して、良いもの、悪いもの分類しかないと思い込んでいましたが、ひねりのある問い、矛盾のある問いなど過去のワークショップ事例を交えて解説してくださったので、非常にイメージしやすくわかりやすかったです。

グループワークで出た問いを自分たちで分類した時に、始めはコーチングだと思ったものもよく考えたらティーチングだった、シンプルクエスチョンとも言えるなど新たな気づきがたくさんありました。講師の方々から出たのは、ティーチングクエスチョンをいかにティーチングだと悟られずにするのか、といったことです。

受講生はティーチングによって答えを誘導されていることを感じると冷めてしまうので、コーチングやシンプルクエスチョンに見せかけながら受講生から引き出すことが大事であって、受講生との会話や会話の言い換えを通じて信頼関係も築いていく、私は講師経験がないので受講生目線として考えると確かにそういった問われ方はいいなと思うことがたくさんありました。

経験豊富な方々との初めてのワークショップで、不安も多かったのですが、実際参加してみて得られたもの気づいたことなどが沢山ありました。また機会があれば参加させていただきたいです。ありがどうございました。

【瀬戸山】
フィロソフィカル・クエスチョンについて自分自身へ問いかけることにより、物事の本質的な捉え方や固定概念に捉われない視点などが生まれ、新たな成長を促せると感じました。
一方で概念的な発想に行き着いたり、答えがないものを求めるため具体的な成果を求められている研修業務などで使用するには
難しい側面もあると感じました。クライアントとの事前合意や問いのコンビネーションなどにより研修業務でも効果的な使い方ができるようになりたいと思います。
追記:創発的コラボレーションはどうすれば起こりやすくなるのか?に対し実験と検証を幾度も重ね、一つの答えに導く自らへの問いと探求心に感動致しました。

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