問題発見プロフェッショナル(斎藤 嘉則 2001年 ダイヤモンド社) 問題を解決するだけの営業から、ワンランク上の営業へ
こんにちは。株式会社アルヴァスデザインの矢野です。
「お客様が抱えている問題を解決することが、営業の本質である。」
これは、いたるところで聞くメッセージです。
しかし、これは本当に正しいと言えるでしょうか?
この本は、タイトルの通り「問題発見」について書かれた書籍です。
初版第1刷は2001年なので20年近く前に出版された書籍ですが、現在に至るまで第24刷まで増刷されているロングセラーとなっています。
コンサルティングに従事されている方であれば必須の書籍かと思いますが、営業パーソンにとっても価値ある1冊としてオススメします。
今日はその中身の一部について触れながら、私の主張もまじえて紹介したいと思います。
1. 日々の営業行動について振り返る
私たち営業は、企業のフロントに立つ人材として市場のお客様と常に価値交換機会を伺っていると思います。価値交換を平たく言うと、「サービスを提供して収益を回収する」ということになります。その価値交換機会のきっかけとして、お客様から「相談を受ける」ということは営業であれば1度や2度経験をしたことがあると思います。
「○○に困っているんだけど、何か提案してもらえない?」
こういったお話をお客様からもらえたら、皆さんはどう感じますでしょうか?
そして、どのような行動をとりますでしょうか?
例えば、「提案したい」「解決したい」「売上を上げたい」など…思い思いに発露される何かがあると思います。さらに言うと、月次の目標を抱える営業であれば上記3つの思いに「一刻も早く」という思いも追加されるかもしれません。きっと、このように考え、行動しようとする方が多いのではないでしょうか。
私自身もそうですが、実際にお客様から相談をもらうと、その嬉しさから超特急で提案したくなります。
でも、この行動は本当に正しいことなのでしょうか。
2. 与えられた問題を鵜呑みにする営業は淘汰の対象になる
ここで学生時代を思い返して欲しいのですが、私たちが受けてきた教育の根幹は、「正解を早く正確に導き出す」ことでした。
問題そのものに対する疑問を抱くことなく、「答えは何か?」に徹底して向き合い続けてきたと思います。
そのような教育を受けてきた私たちが、いざ大人になって営業現場に出ていくとどういった現象が起こるでしょうか。
「お客様が抱える問題をなるべく早く正確に解決する。」
ということに、無自覚に奔走することにならないでしょうか。
もっと言うと
「お客様が提示した問題になんの疑いも持たずに、なるべく早く正確に解決する。」
というクセが身についていないでしょうか。
世間一般的に、お客様から求められたことにのみお答えをする営業のことを「御用聞き」なんて言ったりします。
これを決して否定するわけではないですが、この行為にのみ奔走している営業は、いずれ淘汰の対象になるかもしれません。
なぜなら、お客様自身が問題だと思っていることを捉え違うことはよくあることだからです。―そこに営業が気づかないで応対していると、当然、解決策の提案も間違った方向に向かうことにならないでしょうか。
3. まずお客様と向き合う姿勢を変えよう
では、なぜ営業はすぐにでもお客様の問題をそのまま解決したいと思うのでしょうか。
前述した通り、学生時代に受けた教育が関係していることは間違いありませんが、要因は他にもあると私は考えています。
複数要因がある中で、私は「視座」の問題が大きいと考えています。「視座」とはつまり、「最終的に誰の利益を守ろうとしているか」ということです。
私たちは、自社のビジネスを成長させることにコミットしている以上、自然と「自社」「自分」の利益を守ろうとするものです。例えば、月末でほとんど時間が限られている中であと1件契約すれば自分の目標は達成される状況だったとします。
そこに、偶然にも提案にこぎつけているお客様がいたとします。しかし、このお客様についてよくよく考えるとわざわざ自社商材を導入する必要がないことにあなたは提案中に気づいてしまいました。つまり、お客様の問題の本質を解決するためには自社商材ではない解決策が望ましいということに気づいたわけなんです。
しかし、お客様はそれに気づいていません。このまま受注に向けて推し進めればあなたは社内でヒーローになれる一方、お客様の問題は全く解決されません。
さぁ、皆さんならどうしますでしょうか。
上記はやや極端な例を題材にしました。しかし、このような現象は決して珍しいものではないはずです。
私たちには、無自覚でいると本当の問題なんてどうでもよくなって自分を守ることに必死になってしまう可能性を常に抱えているのです。
このように、営業は時にジレンマを抱える仕事でもあると思います。
でも、営業はこの営利追及と顧客の問題の本質を超越した存在にならないといけません。そうしないと事業も継続しませんから。
ここで一つ、皆様に提言したいことは、
「問題の本質を捉えて最高の解決策を示したいなら、まずはお客様と虚心坦懐に向き合ってみよう」ということです。
虚心坦懐とは、心をクリアにするということです。
自分自身の目標、成績、評価、周囲からの期待など
自らを取り巻く様々な関係物を一旦横に置いて、真にお客様に向き合ってみませんか?
私は、この虚心坦懐にお客様と向き合う姿勢がないと問題の本質を捉えることは不可能だと考えています。
4. 問題の本質を捉えるフレーム
では、姿勢が整ったらお客様の問題の本質をどのように発見していくのか。
本書でも紹介されていますが、1978年にノーベル経済学賞を受賞したハーバート・A・サイモンによると、下記のように書かれています。
[問題解決]は[目標]の決定、[現状]と目標([あるべき姿])との[差異]([ギャップ])の発見、それら特定の差異を減少させるのに適当な、記憶の中にある、もしくは探索による、ある道具または過程の適用というかたちで進行する。 (出典:意思決定の科学より)
つまり、問題とはありたい姿と現状とのギャップのことを指します。
その前提で本書では、問題の本質を捉える上では4Pが大切であると書かれています。
・purpose:目的
問題を解決する上で、そもそもの目的は何かを考えることです。
そして、その問題をおさえ続けることも大切です。
・position:立場
どの立場でその問題を捉えているのかを把握する必要があります。
どの人物が、どの会社がなどの立場を明確にしましょう。
・perspective:範囲
問題のどの範囲で解決すべきものなのかを明確にしましょう。
時には柔軟に、その範囲を変更する必要もあります。
・period:期間
どの時間軸で問題を見ているのかを確認しましょう。
ありたい姿はいつ実現するものなのかなどを明確にしましょう。
この中で、本コラムでは1つだけpurpose(目的)の具体例をご紹介します。
日常的によくある具体例なので、ぜひ想像してみてください。
(例)
あなたは、健康増進のために、スポーツクラブで水泳を始めたとする。
当初の目的は健康増進で、週2日1キロずつ泳ぐと決めた。
ただ、それを繰り返すうちに、多少体調が悪くても、週2日1キロずつ泳ぐことを続けてしまった。
結果、かえって健康に悪影響が出た。
さぁいかがでしょうか。手段が目的化してしまい、一見すると馬鹿げた話しにも聞こえますが、日々の仕事の中でも同じようなことが頻発していないでしょうか。
上司の指示、お客様のリクエスト、これらは手段になっていることが大半です。行動を促していくためには大切なことなので当然といえば当然なんですが、あなた自身が「何のために?」という目的をはじめとする4Pに照らして、問題の本質を捉えようとすることこそがワンランクもツーランクも上の営業になるためには必要なのかもしれませんね。
5. おわりに
いかがでしょうか。
コロナウイルスの影響もあり、営業のやり方に変化が求められています。
訪問営業は制限され、オンラインに切り替わってきているかと思います。
ただ、このお客様の問題の本質を捉えるということは、営業手法に関係なく原理原則の部分として大切になると考えています。
原理原則とは、守っているだけで必ず成功するものではないが、守らないと失敗する確率が高いものです。
このコラムを機に、お客様の問題の本質に目を向けるという原理原則を見つめなおすきっかけになれば嬉しく思います。
Good luck!!
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営業におけるスキルのみならず、幅広い視点から営業を捉えていたりもします。
ぜひ、営業パーソンにとどまらず様々な職種の方にも読んでいただきたいです。