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【第10回】 トラックメーカーでの事例 ~ いま、生き残るための営業術(輸送経済新聞 2021年4月6日掲載記事)

インサイトセールスの重要性を強く感じた事例を紹介したい。
これは数年前のことだ。私は、あるトラックメーカーの営業人材育成の支援をしていた。
営業テーマは「まだ取引がない顧客にどうアプローチするか」だ。
そこで、普段どのような営業活動をしているかと聞くと、「走行距離と車両年数が長いトラックに対し、車検の時期を見計らってリプレース(代替え)を狙う」という。
アプローチ方法をさらに聞くと、「飛び込み営業をして見込みがありそうなら見積書を社長に渡す」と言うので、がくぜんとした。
1台で1千万円を超えるトラックを売り込むのに、飛び込み営業をして見積書を渡すなど、到底うまくいくとは思えない。
この営業担当者と相談し、私はすぐに方向転換を提案した。
「まずは経営者の話を聞きましょう」と指示し、アポイントメントを取ってもらったのだ。

思いがせきを切った

そして数日後の午後1時。私は営業担当者とトラックメーカーにいた。
アポイントメントを取る際に社長からは「別にいいけど、忙しいから短時間でお願いね」と
何度も言われたようだ。
「短時間か…厳しいな」。私はそうつぶやきながら、面談の部屋へと向かった。
隣に目をやると、営業担当者の手にはパンフレットと見積もりの概算が書かれた紙が強く握られている。
時間が短いため、パンフレットや見積書をすぐに渡したくなるのも無理はない。
だが私は「社長の話を聞くことに徹しましょう」と念を押した。
いざ面談となり話を聞いていくと、社長は創業時を振り返りながら語りだした。
社長はあまたの試練を乗り越えてきていた。
あまりの苦労話の連続に、涙をこぼしそうにもなったが社長はうれしそうに話している。
思えば、経営者は人前で涙することなどない。
だが、こうして話を聞くと、悩みや苦しみを抱えていたことが分かった。
従業員のことをどれだけ思っても、なかなか届かないこともある。

経営者は孤独なのだ。

共感をしながらも聞き続けると、話は現在のことにまで至った。
会社に対する社長の思いが、次々とせきを切ったようにあふれ出てくる。
経営をする上で大切にしていることや、ビジョンについて熱く語ってくれた。
気が付けば時計の針は午後3時を過ぎていた。短時間で、とくぎを刺されていた面談時間が、2時間を超えていたのだ。

衝撃的な一言

長時間の面談の最後に、私たちは衝撃的な言葉を耳にした。
「君たちからトラック2台、買うよ」と言うのだ。
私たちはまだ見積書を出してもいない。
冗談かと思ったが、社長の目は真剣そのものだった。
それから数日がたち、「なぜ見積書を見てもいないのに私たちから買うことを決めてくれたのか」と社長に聞いた。
すると社長は

「君たちと話して、創業時に大切にしていたことを思い出した。話を聞くだけでなく、まとめたり質問をくれたりしたのでビジョンも膨らんだ。これからも、定期的にうちに来て将来のことを相談させてよ。」

と口にした。
これは、私にとって一生忘れられない体験になった。
営業活動が「商品やサービスを売ること」であることは間違いない。
ただ、それ以上に経営者の思いを形にする、もっとダイナミックな仕事であり、それこそがインサイトセールスと言える。
経営者の思いを形にするために、営業担当者は経営者から選ばれる必要がある。
具体的に「選ばれる営業担当者」のポイントをまとめたので、ぜひ参考にしてほしい。

インサイトセールスとは、経営者に寄り添い、その思いを形にする、新しい営業の生き方そのものなのだ。

代表取締役 CVO
早稲田大学大学院理工学研究科終了後、株式会社ファンケルに入社。
その後、30歳を節目に営業の世界に飛び込み、多くの会社の教育支援に携わる。
2013年(株)アルヴァスデザイン設立。著書に「実践!インサイトセールス(プレジデント社)」。

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