ALVAS JOURNAL

AI時代に提案力の向上は可能?「これからの提案力」に必須の思考フレームワークとは?(前編)

 

こんにちは、プロデューサーの矢野です。今回のコラムは、

「営業スキルを磨きたいけれど、提案力にいまひとつ自信がない…」

「今は、お客様にうちのサービスが受け入れてもらえているけれど、AIがさらに進化する世の中になれば、うちのサービスの存在意義がなくなるかも…」

といったお悩みの方に、ぜひおススメです。

今回のコラムは、”AI時代に提案力の向上は可能? 「これからの提案力」に必須の思考フレームワークとは?”と題し、これからのAI時代にも通用する提案力について掘り下げていきます。さらに、提案力を磨く上で欠かせないフレームワークについてもあわせてご紹介していきたいと思います。

 

冒頭から若干ネタばらしになりますが、このコラムのサブテーマは”洞察”です。

 

お客様を洞察し、深い理解を通じて、お客様の「ありたい姿」をつかむ。その「ありたい姿」に近づけるよう、お客様をリードするためには、時代の変化を読み取り、未来を構想する力を高めることが必要です。

顧客を洞察する力と、未来を洞察する力。このコラムが、それらの力を高める起爆剤になればと思います。

ちなみに、今回のコラムは内容が盛りだくさんになってしまいましたので、前編・後編の2回にわたってお伝えします。

求められる営業がインサイトセールスにシフト! その理由をおさらい

これまでのコラムでも度々取り上げてきましたが、今日に求められる営業スタイルが「ソリューション営業」から未来志向型の「インサイトセールス」にシフトしてきています。

時代を勝ち抜く新しい営業スタイルとは – ソリューション営業からインサイト営業へ(前編)

時代を勝ち抜く新しい営業スタイルとは – ソリューション営業からインサイト営業へ(中編)

時代を勝ち抜く新しい営業スタイルとは – ソリューション営業からインサイト営業へ(後編)

 

なぜソリューション営業は交代を迫られているのでしょうか?

 

おさらいとなりますので簡単にまとめると、ソリューション営業が有効に機能しなくなった理由は2つあります。その2つとは、①IT技術の進展と、②顧客側の情報収集力の向上です

インターネットを駆使することで、顧客は、自らが抱える課題の解決策に簡単にアクセスすることができるようになりました。しかも短時間のうちに競合とのサービス比較まで行えるようになったため、「顧客の問題解決」を謳うソリューション営業が有効に機能しなくなったのです。

 

この動きは、「顧客の問題解決」から「顧客がまだ自覚すらしていない真の課題を引き出すこと」へのニーズの変化を示しているとも言えます。顧客にとっての真の課題とは何なのか、洞察(インサイト)を突き詰めると、目の前の困りごとの次元にはなく、顧客が掲げている経営理念やビジョンに行きつきます。

 

そのため、経営者の考え方をより深く、より広く理解することが極めて重要となります。顧客を深く理解し、その「ありたい姿」の実現を支援する営業スタイル、それこそが「インサイト営業(インサイトセールス)」なのです。

 

ソリューション営業が現行の営業スタイルとすると、自ら先手をうち顧客側に変革をもたらす「インサイトセールス」が、未来志向型の営業スタイルであるとお伝えしたのは、こうした考察を積み重ねてきたからでした。

 

「インサイトセールス」で磨かれる「これからの提案力」

さて、この「インサイトセールス」ですが、その実践を重ねることで、お客様との信頼関係が一層強いものとなります。お客様の「ありたい姿」の実現のために、将来の機会やリスクを見越した提案をする機会が増えることになるでしょう。つまり、営業担当者には、お客様の一歩先に立って引っ張っていくことが絶えず求められることになります。

 

この局面に入ってしまうと、お客様の業界周辺の情報収集にとどまっていては、けん引力を維持することができません。時代の動向をとらえる力や未来図を描ける構想力を伸ばすことで、未来を見据えた提案力が強いものとなりますし、お客様をリードし続けることができるのではないでしょうか。まさにこうした力は、「これからの提案力」として必須の能力となるでしょう。

 

話は変わりますが、人工知能(AI)やIoT、ビックデータ、ブロックチェーン、拡張現実(AR)・仮想現実(VR)といったデジタルテクノロジーに関する話題が、昨今、ニュースや雑誌などで盛んに取り上げられています。また、「AIに雇用を奪われる」「AIが人間以上の知性を持ち、われわれの生活を脅かす」といった脅威論を目にすることも少なくありません。

 

AIやIoTをはじめとしたデジタルテクノロジーの影響を抜きにして、お客様のビジネスの将来像を語ることは、もはやできない時代です。もし、デジタルテクノロジーへの脅威や不安を漠然と感じたまま過ごしているとしたら、お客様をけん引する立場としてふさわしい姿勢とはいえないでしょう。

 

「そう言われても、専門家でもないし、技術的なことはよく分からない…」、「根っからの文系で、普段聞き慣れない話だし、何といっても苦手意識が強くて…」といった思いをお持ちの方も、いらっしゃるかもしれません。

 

でも、ご安心ください!デジタルテクノロジーの専門家でなくても、AI時代の動向を捉え未来図を構想する、まさに未来をインサイト(洞察)する力を高める方法をお伝えしていきます。どうぞお付き合い下さい。

 

テクノロジー進化の行きつく先、「シンギュラリティ」とは?

未来をインサイトする上で、AIやIoTなどのデジタルテクノロジーのどういった点が、私たちにとって脅威となるのか、まずは整理したいと思います。その脅威と向き合うことで、それに備えるべき行動も見えてくるでしょう。

 

ニュースなどでAIが取り上げられる際、その脅威としてよく話題にのぼる言葉に、「シンギュラリティ」があります。「シンギュラリティ(特異点)」は、AIの世界的権威である未来学者レイ・カーツワイルが提唱した考え方で、2005年に出版した本をきっかけに広まりました。カーツワイルは、シンギュラリティをこう定義しています。

シンギュラリティとはなにか。それは、テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうような、来るべき未来のことだ。
「迫りくるシンギュラリティという概念の根本には、次のような考え方がある。人間が生み出したテクノロジーの変化の速度は加速していて、その威力は、指数関数的な速度で拡大しているということだ

(『シンギュラリティは近いー人類が生命を超越するとき』 レイ・カーツワイル/著)

ちょっと抽象的ですね…。『シンギュラリティ・ビジネス』(齋藤 和紀/著)では、この定義をわかりやすく解説しています。

シンギュラリティは、もともと数学や物理学の世界でよく使われる概念で、「特異点」を意味する言葉です。理論的な計算によると、ブラックホールのなかには重力の大きさが無限大になり、光でさえ逃げ出すことができなくなる「特異点」があると考えられるそうです。ただ、カーツワイルの唱えた「シンギュラリティ」は、それとは全く別のものです。

※出典:『シンギュラリティ・ビジネス』(齋藤 和紀/著)より

 

時間を横軸に、進化・増加の度合いを縦軸にとったグラフで表すと、テクノロジーの進化の速度が以前の倍、さらにその倍と、時を追うごとに倍々のペースで増し続けた場合、最終的には無限大に限りなく近づくポイントに達し、時間軸とほぼ垂直になることがわかります。

 

指数関数を示すこのグラフがたどる垂直に近づくポイント、それが「シンギュラリティ」なのです。正式には「技術的特異点(テクノロジカル・シンギュラリティ)」と呼ばれますが、単に「シンギュラリティ」といえば、こちらを意味するようになりました。

 

またシンギュラリティは、AIなどのコンピュータ技術が単独で引き起こすわけではありません。生命科学やナノテクノロジー、ロボット工学などのあらゆる分野の科学技術が進化することで、シンギュラリティが訪れるとされています。

 

「シンギュラリティ」の生みの親、カーツワイルってどんな人?

2015年2月に総務省は、人工知能分野の研究者やIT企業の経営者らを集めて、シンギュラリティについての研究会を開きましたが、政府機関がシンギュラリティをテーマにした研究会を主催したという、その話題性から当時注目を集めました。

総務省、「2045年の人工知能」の研究会で激論

総務省は2015年2月6日、東京・霞が関の庁舎内で「インテリジェント化が加速するICT(情報通信技術)の未来像に関する研究会」の第1回会合を開いた。

(中略)

研究会の開催要項には「2045年にはコンピュータの能力が人間を超え、技術開発と進化の主役が人間からコンピュータに移る特異点(シンギュラリティ)に達するとも議論される」とある。政府機関が人工知能の中長期的な進化に伴う、いわゆる「2045年問題」を主題とする研究会を開くのは極めて異例のことだ。

研究会の座長に選任された慶應義塾大学環境情報学部学部長の村井純氏は「『シンギュラリティの研究会を中央省庁で開く』と海外の研究者に話すと、一様にびっくりされた。新しい技術には大きな可能性もあれば、ネガティブな面もある。その辺をしっかり議論していきたい」と話した。(後略)

(日本経済新聞 2015年2月10日)

 

このニュース記事にある、

  • シンギュラリティに達すると、技術開発と進化の主役が人間からコンピュータに移る。

(補足:技術の進化の速度が無限大に近づくことで、それまで人間が進化させてきた流れが断ち切られ、技術自ら、自身より優れた技術をつくり出します)

  • シンギュラリティが2045年頃に起きる。

 

といった予測も、先ほどのカーツワイルが提示したものです。

 

カーツワイルは天才のなかの天才というべき人物で、持っている博士号の数は20以上。また、彼の未来予測の精度は80%を超えると言われています。なかでもヒトゲノム計画が完了する時期を予言し、的中させたことでも知られています。

 

また彼は、シンギュラリティ大学という研究機関兼企業家を養成する機関を設立しました。そこで行われる経営層向けプログラムは、参加費が超高額にもかかわらず世界中のエグゼクティブがこぞって参加しています。

 

「シンギュラリティ」に備えて、営業担当者として今できること

では、2045年頃に起きるとされる「シンギュラリティ」ですが、実際にそれが起きた場合、私たち人間にどんな影響が及ぶのでしょうか?

カーツワイルは自著のなかで、こう告白しています。

「事象の地平線がどういう意味がもつのかを、何十年も考察してきたが、事業の地平線の向こう側を見ることは不可能ではないにせよ、難しいことだと個人的に考えている。」

(『シンギュラリティは近いー人類が生命を超越するとき』 レイ・カーツワイル/著)

つまりは、シンギュラリティに達した世界がどのようなものか、カーツワイルも含めてもはや誰にもわからないわけです。ただ彼は、「人間の能力が根底から覆り変容する」レベル、「人類が生命を超越するレベル」になると述べています。

 

デジタルテクノロジーに対する脅威や不安が高まるのは、まさにこうした先行きの不透明さにあるので、当然と言えば当然です。また一方で、シンギュラリティの到来について懐疑的にみる専門家もおり、賛否両論があるのも事実です。

 

ただ、お客様の一歩先に立ち、けん引する立場である営業担当者としては、シンギュラリティが起こるかどうかの議論に振り回されるよりも、シンギュラリティが起こることを前提に、加速する技術進化にいかに対応していくかを念頭に置いて動いていく方が現実的ではないのでしょうか。

 

前述の『シンギュラリティ・ビジネス』の著者である齋藤氏は、シンギュラリティを見据えた時代を生きる考え方として、「エクスポネンシャル思考」を紹介しています。

 

「エクスポネンシャル」とは、「指数の、指数関数的」を意味します。シンギュラリティの解説でのグラフで、テクノロジーの進化が時とともに指数関数的に急激に進むことをお伝えしましたが、まさにその激変する環境を生き抜くための考え方が、この「エクスポネンシャル思考」なのです。

 

次回、コラム後編では、その思考フレームワーク、「エクスポネンシャル思考」を掘り下げます。どうぞお楽しみに!

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※本コラム前編のまとめ

  •  デジタルテクノロジーがもたらすお客様の事業への影響を考慮して、先手を打ち、変革をもたらしていくためには、未来をインサイト(洞察)することが重要。
  •  テクノロジーの劇的な進化により、2045年頃にシンギュラリティに達するとカーツワイルは予測しているが、その発生に賛否両論あることも事実。シンギュラリティ後の世界はもはや誰にもよくわからないが、それが起こるかどうかの議論に振り回されるよりも、起こることを前提として、いかに対応していくかを念頭に置いて動くのがベスト。そして、これからの激変する環境を生き抜くための考え方が、「エクスポネンシャル思考」である。

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AI時代に提案力の向上は可能? 「これからの提案力」に必須の思考フレームワークとは?(後編)

 

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