ALVAS JOURNAL

【第1回/全3回】刺さらなかった一つの提案が教えてくれた、営業の本質

 

こんにちは。荻原です。

今回からアルヴァスデザイン代表取締役CVO・高橋研さんに、3つのテーマで伺ったインタビューを、順にお届けします。一本目のテーマは、私たちが事業の柱に掲げる「インサイトセールス」です。

研究の道を歩んでいた高橋さんが、なぜ営業の世界へ進んだのか。
どんな商談を経て、インサイトセールスにたどり着いたのか。
そして、AIが日々進化するこの時代に、なぜ相手の思いに向き合う営業こそ大切だと考えるのか。その原点と、これからの営業観を伺いました。

本記事は、全3回シリーズの第1回目です。

第1回 刺さらなかった一つの提案が教えてくれた、営業の本質(←今回の記事はこちら)
第2回 一位になったチームが、全員辞めた日
第3回 伝える人が、まず実践している
 

目次

1. 30歳、研究職から営業への回り道

荻原:本日はよろしくお願いします。まず、高橋さんが営業と出会うまでの歩みから、伺わせてください。学生時代は、どのような道に進もうとされていたのですか。

高橋:私は大学院で理系の研究をしていて、そのまま研究職に進むつもりでした。ただ、ちょうど就職氷河期で、60社受けても一つも決まらないような時期だったのです。

荻原:60社ですか。それは厳しい時代ですね。

高橋:そんな中、ある商社の面接で、思いがけない言葉をいただきました。
「君は一味違うね。研究ではなく、営業としてうちを引っ張ってほしい」と。研究職としては落ち続けていた自分を、まっすぐ受け止めてもらえた。その事実だけで、正直、心が動きました。

荻原:研究職を志していた方に、営業として声をかけるというのは、めずらしいですね。

高橋:ええ。ただ、大学の恩師には強く引き止められました。まだやり尽くしていないだろう、と問い直されたのです。当時はうまく飲み込めない思いもありましたが、それだけ真剣に私の将来を考えてくださっていたのだと、今は思います。
結局そのときは、研究の道を選びました。大手の化粧品メーカーに、研究・製品開発の職として入社しました。

荻原:では、そのまま研究者として歩まれたのですね。そこから、どういう経緯で営業の世界へ向かわれたのですか。

高橋:研究職として数年を過ごす中で、次第に、お客様から直接「ありがとう」と言っていただける仕事がしたいと思うようになりました。そこで、30歳のとき、思いきって営業の世界へ飛び込みました。
営業畑をずっと歩んできたと思われることも多いのですが、実はそうではありません。

荻原:研究職から営業へ。それは、大きな転身ですね。当時、営業という仕事を、どう見ていらっしゃったのでしょう。

高橋:正直なところ、よくわかりませんでした。研究職の情報ばかり追っていて、営業について調べたこともありませんでしたし、哲学と呼べるものも、何も持っていませんでした。ただ、学生時代の販売のアルバイトで、人に向き合う感覚の大切さだけは、うっすら感じていましたね。

2. 「明らかに刺さらない」提案が教えてくれたこと

荻原:なるほど、手探りな部分も多い中、営業の世界に入られたのですね。そこから、ご自身の営業観が形づくられていくきっかけは、どこにあったのでしょう。

高橋:はっきり覚えているのは、営業として6年目、36、7歳の頃の商談です。全国に展開する大手メーカーの専務さんと、お会いする機会がありました。しっかりヒアリングして提案書を書き、上司にも添削してもらい、理屈としては完璧に通っているはずの提案を持っていきました。ところが、明らかに刺さっていない。誰の目にも、相手が乗ってこないのがわかるほどでした。

荻原:準備としては、できることをやり切っていた。それだけに、「なぜ届かないのか」が分からない商談だったのですね。

高橋:はい。これ以上同じ話をしても進まないと思って、その場でいったん提案を脇に置き、あらためて話を伺いました。今度は業務上の課題だけでなく、その方自身の夢や、人生で大切にしていることを尋ねました。すると、急に話が弾みはじめました。後日、その話を踏まえて、作り直した資料を持っていきました。

荻原:相手の夢や大切にしていることを起点に、資料を組み直したのですね。二度目の提案では、相手の反応はどう変わりましたか。

高橋:その資料を、株主総会と経営会議で使わせてほしい、と言っていただけました。受注以上に、そのような大事な場で使ってもらえることの方が嬉しかったですね。現場が動いた興奮というより、経営に貢献できたのだ、という手応えがありました。

荻原:聞く相手を変えたわけではなく、聞くことを変えただけで、受け取られ方がそこまで変わったのですね。その経験は、高橋さんの営業観を、どう変えたのでしょうか。

高橋:提案の中身を固めるより先に、その方が何を大事にしているのかを聞く。あの商談を境に、そこから始めるようになりました。
ちょうどその頃、ダイヤモンド社のハーバード・ビジネス・レビューで、インサイトセールスという営業手法の特集が組まれていました。その記事を読んで、「あの商談で起きたのは、こういうことか」と腑に落ちたのです。自分の実感に、名前がついた感覚でした。

荻原:インサイトセールスとは、どういう営業なのでしょうか。

高橋:インサイトは、日本語にすれば「洞察」です。
目の前に出ている言葉だけでなく、その奥にある思いや可能性を、対話を通じて一緒に明らかにしていく、ということですね。営業に置き換えれば、お客様自身がまだ言葉にできていない思いや、まだ気づいていない可能性を、一緒に見つけていくことになります。
これまでの営業は、お客様が挙げた課題に解決策を出す、ソリューション営業が主流でした。インサイトセールスは、その一歩先へ進みます。
経営層が抱く夢やビジョンにまで向き合い、お客様と一緒に、まだ見ぬ未来を描いていく。あの商談で私がしたのは、まさにそれだったのだと思います。

荻原:理屈ではなく、相手の思いに向き合う。その転換が、原点にあったのですね。とはいえ、提案が刺さらないと分かったとき、多くの人は「なぜわかってくれないのか」と、つい相手のせいにしてしまいそうです。高橋さんは、どうして自分の側を見直せたのでしょう。

高橋:相手に矢印を向けている限り、前には進みません。だから、その矢印を自分に向け直して、もう一度聞きに行ったのです。腹を立てても、始まりませんからね。

3. 「営業する/される、楽しい世の中の実現」というビジョン

荻原:相手が大切にしているものから提案を考えることで、営業する側だけでなく、提案を受ける側の体験も変わっていく。そうした実感が、アルヴァスデザインの掲げる「営業する/される、楽しい世の中の実現」というビジョンにつながったのでしょうか。この言葉に込めた思いを聞かせてください。

高橋:以前から腹に落ちていた「試行錯誤を重ねて、自分に投資する」という考え方が、始まりでした。つまりは、学ぶ、ということです。学んでいる人に、サボっている人は勝てません。そして、学んでいる人も、その仕事を心から楽しんでいる人には敵いません。結局、「楽しい」が最も強いのだと思います。

荻原:スキルや努力だけでなく、仕事を楽しめている状態そのものが、成長や成果につながるということですね。

高橋:自分自身、夢中で楽しんでいるときが、一番いい仕事ができていた実感があります。その「楽しい」をどうつくれるか。これからの社会を考えるうえで大事なことだと思えて、会社のビジョンに掲げたいと考えました。

荻原:この言葉は、はじめからこの形だったのでしょうか。

高橋:いえ、当初は「営業するのが楽しい世の中を実現する」と掲げていました。ところが、当時のメンバーから、それでは顧客の視点に立てていないのではないか、という意見をもらいました。なるほどと思い、「される」も加えたのです。批判的に見てくれる仲間がいたからこそ生まれた言葉ですね。

荻原:このビジョンが実現した光景を、高橋さんはどのように思い描いていますか。

高橋:私たちのお客様が、「私たちとの取引」ではなく、「ご自身のお客様との仕事」を、うちのメンバーに生き生きと語ってくださる。さらにその方が、若い学生に営業の面白さを伝えたり、お子さんに「営業をやってみたら」と勧めていたり。そんな姿を想像するだけで、いいなあと思えるのです。法人向け営業も個人向け営業も関係なく、そういう世の中になってほしいですね。

荻原:直接関わってこられたお客様の中では、どのくらい近づいている感覚ですか。

高橋:日本社会全体では、まだまだ遠いですね。ただ、じかに関わったお客様に限れば、ずいぶん変わってきた実感があります。本当に楽しそうに取り組んでくださっていて、私たちが目指す「営業を楽しめる組織」に、かなり近づいている会社も少なくないのではないでしょうか。

4. AI時代だからこそ際立つ、内省と対話の価値

荻原:「楽しい」を軸にしたビジョンを伺ってきました。ここからはAIについて伺います。これほど加速度的に進化する時代に、営業はどう変わっていくとお考えですか。

高橋:AIが発展し、便利になるほど、私たちは考える過程までAIに委ねてしまう可能性があります。だからこそ、自分自身で考えるという行為に、かえって価値が生まれてくるのだと思います。

荻原:確かに、AIによって考えが深まる面もある一方、任せすぎれば、自分で問いを立てたり、振り返ったりする機会を失う可能性もありますね。その中で、人が自分自身で考えることには、どのような価値があるのでしょうか。

高橋:内省やリフレクションなど、自分を振り返る行為は、自分を成長させ、それを実感させてくれます。AIは内省のきっかけや問いを与えることはできますが、最後に自分自身を振り返り、自分の価値観に気づくことは、本人にしかできません。だからこそ、一人ひとりの価値観に触れ、内省が深まる対話が要る。その対話は、営業に必ずついてくるものだと思っています。

荻原:振り返りは、自分にしかできない。たしかに、そこはAIに代わってもらえないところですね。人間の強みの根っこは、どこにあるとお考えですか。

高橋:価値観だと思いますね。内省が深まり、その人の本質から仕事を進められるようにしていく。そういう営業には、大きな価値があると思います。

荻原:知識やスキルではなく、その人が何を大切にしているかという「価値観」に、人間ならではの強みがあるのですね。それは、高橋さんが掲げてきたインサイトセールスと、どうつながっていくのでしょうか。

高橋:まさに、インサイトセールスにつながります。相手のビジョンに向き合い、対話を重ねないと表に出てこない、思いそのものを扱う。それがインサイトセールスだと考えています。

荻原:思いそのものを扱う営業なのですね。ただ、いずれAIが人のアバターのように、営業する側に回る場面も出てくるかもしれません。そのとき、インサイトセールスはどうなるのでしょう。

高橋:AIも進化すれば、インサイトセールスに近いことは、ある程度できるようになると思います。「自分をわかってくれた」と感じさせる演出も、いずれ可能になるでしょう。一部は、AIに置き換わっていく可能性はありますね。

荻原:では、AIが「自分をわかってくれている」と感じさせられるようになったとき、人が担う営業には、どのような価値が残るのでしょうか。そうした技術の進化を、高橋さんご自身はどう受け止めていますか。

高橋:危機感と、期待の両方ですね。AIに脅かされるという危機感があるからこそ、人にしか出せない価値を、きちんと出していかなければと思っています。

5. インサイトセールスを、どこまで広げていくのか

荻原:最後に、インサイトセールスを、これから日本の営業文化のどこまで広げていきたいか。その展望を聞かせてください。

高橋:基本的な考え方さえつかめば、あとはスキルの問題です。営業パーソンに限らず、広くビジネスパーソンが、この考え方やコミュニケーションの手法を、目的や場面に合わせて使いこなせるようになる。そうなったら、とても素敵なことだと思います。

荻原:本日は、その原点から未来まで伺えました。30歳での回り道、刺さらなかった一つの商談、そして「楽しい世の中」というビジョン。さらに、AIが進むこの時代にこそ、人が相手の思いに向き合う〈考える営業〉が際立つ。その確信までが、一本の線でつながっていました。次回は、テーマをマネジメントに移して伺います。ありがとうございました。

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なお、高橋は、10月20日(火)開催の外部オンラインイベント「NEXT SALES SUMMIT 2026」に登壇します。
講演テーマは、「担当者はYES、なのになぜ止まる?」― 稟議を動かす、インサイトセールスの“社内合意”設計 ―。本記事で触れたインサイトセールスをもとに、顧客企業の社内合意まで見据え、提案を前に進めるための考え方をお伝えします。オンライン開催・参加無料ですので、ご関心のある方はぜひご覧ください。

日時:10月20日(火)13:35~13:55
▶「NEXT SALES SUMMIT 2026」の詳細・無料申し込みはこちら
https://fazom.ai/next-sales-summit2026/?utm_source=alvasdesign&utm_medium=email&utm_campaign=next_sales_summit_2026**
※日程ご都合つかない場合も、お申込みいただいた方にはアーカイブ配信のご案内をいたします。

本シリーズの全3回は、次のとおりです。
第1回 刺さらなかった一つの提案が教えてくれた、営業の本質(←今回の記事はこちら)
第2回 一位になったチームが、全員辞めた日
第3回 伝える人が、まず実践している

荻原エデル

社内では、デザイン関係や営業支援をメインで担当しています!最近は動画編集も始めました。
趣味は筋トレ、空手、映画鑑賞、読書。インドア人間です。

高橋 研

代表取締役 CVO
早稲田大学大学院理工学研究科終了後、株式会社ファンケルに入社。
その後、30歳を節目に営業の世界に飛び込み、多くの会社の教育支援に携わる。
2013年株式会社アルヴァスデザイン設立。2018年「実践!インサイトセールス(プレジデント社)」出版。

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